呪いを解こうと思ったが、一筋縄ではいかないらしい。――4

 さらに二日後。


 素材の採取、調合を終え、『祓魔の儀式』の準備が整った。


『祓魔の儀式』を行うエイリピア城の広場には、ルナーラ湖の水とチラミントから作られた『セントウォーター』で『魔法円』が描かれ、海底樹の枝が周りに立てられ、儀式場が設けられていた。


 桃桜香の匂いが漂うなか、ララはピラー山の岩塩をまき、エイリピアミツバチのミツロウで作られたロウソクが飾られた、魔法円の中央にある台座に歩み寄る。


 俺たちとエイリス王、衛兵たちが見守るなか、ララが柏手かしわでを打った。


『我は願う! この地をさいなむ災いを祓いたまえ!』


 魔法円が真白く輝き、辺りを白一色にする。


 あまりのまぶしさに俺たちは目をつぶった。


 しばらくして、白い光が収まり、俺たちは閉じていた目を開ける。


「クレリアさん、どう?」


 サシャがくと、クレリアさんが首を横に振った。


依然いぜんとして、体のだるさはとれません」

「失敗、ですか~……」


 ララが悔しそうに下唇を噛んだ。


 エイリス王がうなだれ、ポツリと漏らす。


「聖女様の遺品が手に入れば、希望はあるのだが……」

「「「「「「「「「聖女様の遺品?」」」」」」」」」


 聞き慣れない言葉に、俺たちは首を傾げた。


「聖女セラフィ様は、ルビア海の海底にある『カムラ遺跡いせき』に『海の悪魔』をおびき寄せ、命をして討伐したと伝えられているんだ。そのカムラ遺跡に、セラフィ様が用いた『魔導具まどうぐ』がのこされていると言われているんだよ」

「大魔導師とも呼ばれたセラフィさんの魔導具――たしかに、絶大な力を持っていそうです」


 あごに指を当てた思案の姿勢で、ミアが頷く。


「けれど、カムラ遺跡はセラフィ様みずからが使われた封印魔法によって閉ざされている。潜入することができないんだ」


 エイリス王の説明を聞き――俺はひらめいた。


「いや、できます」


「「「「「「「「「え?」」」」」」」」」と、俺を除く全員の視線が俺に集まる。


「カムラ遺跡を閉ざしているのは封印魔法なんですよね? でしたら、潜入できます」

「どうやってだい?」

「クゥのスキルを用います」


 俺の言葉の意図を察した五人が、「「「「「あっ!」」」」」と声を上げた。


「そっか! ボクの『魔法無効まほうむこう』スキルがあれば、封印は解けるね!」

「大魔導師の、魔法でも、魔法は、魔法」

「ク、クゥさんの、『魔法無効』スキルは、あらゆる魔法を、無効化します、からね!」

「そ、そんなに強力なスキルが……!?」


 エイリス王や衛兵たちは、俺たちの話を聞いて仰天ぎょうてんしていた。


 やがて、顔つきを改め、エイリス王が頭を下げる。


「シルバ、クゥ、ミア、ピピ、シュシュ、サシャ、ララ。カムラ遺跡から、聖女様の遺品を取ってきてくれないだろうか?」

「エイリス王、顔をお上げください!」


 一国の王に頭を下げられ、俺は慌てる。


 それでもエイリス王は頭を上げなかった。


「国の存命がかかっているのだから、礼を尽くすのは当然だよ。どうか、よろしく頼む」


 立場すらかなぐり捨てたエイリス王の願いが、俺の心を打つ。


「みんな、いいかな?」


 尋ねる俺に、六人がコクリと頷いた。


 俺はエイリス王にひざまずく。


「わかりました。必ずや、セラフィさんの遺品を手に入れて参ります」

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