呪いを解こうと思ったが、一筋縄ではいかないらしい。――1

 ララの前世は金魚(琉金りゅうきん)だ。


 前世の世界で開かれた夏祭りの帰り、ララは捨てられそうになっていて、代わりに俺が引き取った。


 水槽のなかで、ゆらゆらと優雅に泳いでいたあの子が恩返しにきてくれたと思うと、感慨かんがい深いものがあるなあ。


「初対面でイチコロ!?」


 ジーン、としながらララの頭を撫でていると、クレリアさんがわなないた。


「シルバさんがステキな方だと、重々じゅうじゅう理解したつもりでいましたが……まさか、ここまでのプレイボーイだったとは!!」

「感動のされ方が不名誉すぎる! いや、俺はプレイボーイじゃないですからね!?」

「一〇秒も経たずして女性を落とすなんて、私ですら引くレベルだよ」

「だから違うんですって、シェイラさん!」

「だけど、そこに痺れる憧れるぅ!」

「黙らっしゃい!!」


 ニヤニヤしながら親指を立てるシェイラさんに、俺は強めにツッコむ。


 明らかに俺の反応を面白がってますよね、シェイラさん! 話がこんがらがるから、やめてくれませんかねぇ!


「ララとはもとから知り合いですし、落としたつもりもありませんからね!?」

「わたくしは旦那さまが大好きですよ~?」

「嬉しいけど、いま聞きたい告白じゃなかった!!」


 ララの告白に、シェイラさんが「ヒューヒュー!」と思春期男子みたいにはやし立て、クレリアさんが「ひゃー!」と顔を真っ赤にしている。


 ララに好意を寄せられて心臓の高鳴りが止まらないけれど、なんとか無視して話を進めよう。


「それで、ララはなんでエイリピアここで呪いの解除を手伝ってるの?」


 尋ねられたララが、俺の胸からほっぺを離して語り出した。


「恩返しをするために、わたくしは旦那さまを探して旅をしていました~」

「ボクたちと一緒だね!」

「はい~。クゥさんたちの噂も、旅の途中でうかがってますよ~」


 クゥにニコリと微笑んで、ララが続ける。


「『神獣を使役する規格外の大型ルーキー』――わたくしは、その方こそが旦那さまだと確信しました~。なので、ブルート王国を目指していたのですが、エイリピアここを通りかかった際、苦しんでいる方に助けを求められたのです~」


 ララが苦笑した。


手前味噌てまえみそになりますが、わたくしには魔法の才があります~。そこで、その方にいろいろと魔法を施してみましたら、一時的に回復したのですよ~」


 魚人族は、人族・亜人族のなかで、もっとも魔法の扱いに長けている。ララは神獣なのだから、その才能は破格だろう。


「そうしたら、エイリス王から呪いを解く手伝いをしてほしいと懇願こんがんされまして、断るに断れず、いまに至るのです~」


 頬をきつつ、「あははは……」と、ララが乾いた笑みを漏らす。


 話を聞く限り、ララはずいぶんお人好しみたいだ。多分、前世で捨てられそうになった経験があるため、困っているひとを放っておけないんだろう。


「呪いを解かなければ会いに行けませんでしたので、ここで旦那さまに出会えたのは嬉しい限りですよ~」

「では、ララさんもシルバさまに『使役』されてはいかがでしょう?」


 ミアが笑顔で提案すると、ララは眉を下げ、うつむいた。


「そうしたいのは山々ですが、エイリピアの方々を放っておくわけにはいきませんし~……」


 ララは、エイリス王に呪いを解く約束をしている。逆に言えば、呪いを解かない限り、エイリピアを離れるわけにはいかないんだ。


 ここで『使役』されても、俺についていくことはできない。だからこそ、ララは躊躇ためらっているんだろう。


無問題モーマンタイ


 沈むララを元気づけるように、ピピが薄い胸を張る。


「パパと、ピピたちが、手伝うから、呪いなんて、あっという間に、解ける」

「そ、そうすれば、主さまや、あたしたちと、一緒に、過ごせます、よ!」

「……よろしいのでしょうか~?」


 ピピとシュシュに励まされるも、なおもララは申し訳なさそうだ。


「大丈夫! 師匠はこれまでに何度も困難を乗り越えてきたから、きっと今回も解決しちゃうよ! オレたちも全力で手伝うしね!」

「わたしも! わたしも必ずお役に立ちますよ、シルバさん!」


 そんなララにサシャがカラッと笑い、クレリアさんがシュバッと手を挙げてアピールする。


 俺は溜息ためいきとともに苦笑いした。


 ちょっと期待が重いけど、応えないわけにはいかないよね。なんたって、ララと一緒にいるためなんだから。


「そういうわけだから心配しなくてもいいよ、ララ。よかったら、俺に『使役』されてもらえないかな?」

「旦那さま……!」


 ララが顔を上げ、アメジストの瞳を潤ませる。


「はい! わたくしをペットにしてください~!」

「ありがとう、ララ」


 ララの返事が嬉しくて、思わず顔がほころんだ。


 そんななか、クレリアさんがだこみたいな顔色で、唇を波打たせた。


「『俺に「使役」されてもらえないかな?』――なんて刺激的な殺し文句!!」


 クレリアさんに指摘され、俺はハッとした。


 た、たしかに、これは際どすぎる! ララに仲間になってほしかったとは言え、一歩間違えれば通報レベルの衝撃発言だ!


 思い至り、俺の顔も熱を帯びる。


 シェイラさんがポツリと一言。


「やはりプレイボーイ!」

「こ、今回ばかりは否定できない……!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る