第五章

プロローグ

 暗い空間があった。


 日の光は差し込まず、おりのような闇だけが漂っている。


 不意にいかずちとどろく。


 窓から入ってくる稲光いなびかりで、ようやくそこがどこかの部屋なのだとわかった。


 室内には五つの影があった。いずれも異形いぎょう――モンスターのものだ。


「ダキニが敗れたか」

奸計かんけいに長けた彼女が敗れるとは……いよいよ無視できなくなってきましたね」


 ふたつの影の言葉に、部屋の奥にある椅子に腰掛けた異形が、重々しくうなずく。


「うむ。Fランクスキル保有者だとあなどっていたが、もはやあの人族――シルバを、警戒せずにはいられまい」


 地の底から響くような声で、異形は続けた。


「奴の成長速度は異常にして驚異的。しかも、五体もの神獣を従えている。事実、ドッペルゲンガー、デュラハン、ヴリコラカス、ダキニ。我らの同胞どうほうが四体もほふられた」

「いかがいたしましょう、魔王ディスガルド様。このままでは、わたしたち魔公にも手がつけられなくなります」


 異形たちが黙り込む。


 しばしの沈黙ののち、異形の一体が「ククッ」と笑みを漏らした。


「心配いらねぇよ、魔王様。神獣を引き連れようが、所詮しょせんは人族だろ? 俺たちの敵じゃねぇ」

「油断しすぎですよ、右の。いまの会話を聞いていなかったのですか?」

「なんだよ、怖いのか? 左の」


 言葉を交わしているのは、ドラゴン型のモンスター――その、だ。


「右のも左のも静まれ。ディスガルド様の御前おんまえだぞ」


 言い争う右の頭と左の頭を、がいさめる。


 ドラゴン型のモンスターは、三つ首だった。


「ディスガルド様。私どもに考えがございます」

「申してみよ」


 うながされ、真ん中の頭が述べる。


「『巫女みこ』を引き入れましょう」

「『破壊神はかいしんの巫女』か。だが、『巫女』は封じられている。魔法にけたダキニがった現状、解放する手立てがあるのか?」

「ご心配なく」


 真ん中の頭が、口端くちはしを上げた。


「すでに手を打っております」

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