ずっと踊らされていたが、俺に屈するつもりはない。――9

 相手は魔公だ。魔王軍が誇る七魔公が一角。魔王にぐ実力者。


 それなのに、弱すぎないか?


 俺、クゥ、ミア、ピピ、シュシュは、魔公との戦いを経てレベルアップしている。冒険者として経験を積んできたサシャも、クゥ、ミア、ピピ、シュシュと遜色そんしょくない実力だ。


 うぬぼれでなく、俺たちは強い。


 しかし、だからといって、こうも簡単に魔公を倒せるか? 魔公はこんなにもやわだったか?


 おかしな点はほかにもある。


 先ほどから、ダキニは接近戦を仕掛けてきている。俺たちの猛攻からウインドで逃げ、距離をとったときにも、自分から再び突っ込んできた。


 ダキニが得手えてとするのは魔法だ。


「「ああぁああああああああっ!!」」


 疑問が溢れるなか、青白い障壁を、ミアとサシャが割り砕いた。


「ぬおぉおおおおっ!?」


 衝撃に仰け反るダキニ。胴のガードはがら空きだ。ミスリルソードで一文字に両断できる。


「シルバさま!」

「師匠!」

「「いま(です)!」」


 俺はミスリルソードを横薙よこなぎに振るった。


 この一撃で決まる。俺たちの勝利は目前。


 ダキニは動かない。障壁も展開しない。


 俺の頭に、ひとつの可能性が閃いた。


 俺たちは、ダキニがブロッセン王に成り代わっていると思っていた。


 けど、本当にそうなのか?


 ダキニはずっと、ブロッセン王の姿のままだ。俺たちは、ダキニの真の姿を見ていない。


 だとしたら――




 こいつ、本当に魔公なのか?




「――――っ!!」


 ミスリルソードを振るう手を咄嗟に止めた。


 無理な動きをしたことで、全身の筋肉がきしむ。


 痛みに歯を食いしばり、俺は剣戟を足払いに切り替えた。


 足払いを食らい、ダキニの体が仰向けに倒れる。


「なっ!?」


 目を剥くダキニの肩関節をめ、俺はミアに叫んだ。


「ミア、鎖! できるだけ丈夫なやつ!」

「は、はい!」


 俺が突然行動を切り替えたことでキョトンとしていたミアが、ハッとして、『武具創造』スキルで鎖を生み出す。


 ミアから渡された鎖で、俺はダキニを縛り上げる。


「シルバさま、どうしてトドメを刺されないのですか?」

「もうちょっとだったのに……」

「説明はあとだ。いまはダキニを拘束して――」


 ミアとサシャのほうを向き――俺はギョッとした。


 炎の砲弾が、こちらに放たれていたからだ。


 ミアとサシャが、俺に続いて振り返り、言葉を失った。


 炎の砲弾は、もう目の前。


「師匠! ミア!」


 サシャが血相を変え、俺とミアを抱きしめる。


 炎の弾丸が炸裂した。


 恐ろしいまでの熱量が、サシャの背中を焼く。


「ああぁあああああああああああああああああああああああああああっ!!」


 響き渡るサシャの絶叫。


 フラリと倒れてくるサシャの体を、俺とミアは慌てて受け止めた。


「サシャ!」

「サシャさん!?」

「大、丈夫……オレ、炎魔法の、使い手だから……少し、耐性が、あるんだ……」


 サシャが俺たちに笑みを見せる。一目で無理をしているとわかる笑みだ。




「上手くいかぬものよのお」




 溜息ためいき交じりの声がした。


「ことはわらわの思い通りに進んでいたのじゃが……しいところで逃したわ」


 俺たちは愕然とする。


 その声が、ひどく親しみのある人物のものだったから。


「どう、して?」


 サシャが振り返り、悲痛そうに顔を歪める。




「どうして……リラが、オレたちに、魔法を?」




 俺たちに手のひらを向けたリラが、サディスティックに笑った。

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