マジメな調査のはずだが、みんなのスキンシップがやっぱり激しい。――6

 依頼書の調査から三日後。


 ブロセルクの広場を、大剣と鎧を装備した男が歩いていた。


 一目でわかる。冒険者だ。


「冒険者さん、うちの武器を見ていきませんか?」


 俺はその冒険者に声をかけ、右手でを示した。


 地面にかれた布の上には、長剣、短剣、大剣、槍、斧、メイス、かぶと、盾、鎧と、たくさんの装備品が並んでいる。


 興味を引かれたのか、冒険者が立ち止まる。


 商品をざっと見た冒険者は、値札を確かめて顔をしかめた。


「ずいぶんとが張るな」

「ボクの打った作品にケチをつけるの?」


 冒険者にトゲトゲしい声がかけられる。


 声の主は、木箱に腰掛けたクゥだ。


 クゥは腕組みをして、苛立いらだたしげな目で冒険者をにらんでいる。物理的なダメージさえ与えられそうな鋭さだ。


 その迫力に、「ひっ」と冒険者が尻込みした。


 慌てて俺はフォローする。


「う、うちの鍛冶師は気難しいものでして!」

「そ、そうか……」


 頬をひくつかせる冒険者に「ふんっ」とクゥが鼻を鳴らした。


 俺とクゥが開いているのは、武器の露店ろてんだ。ちなみに、出店許可をもらっているため、正式な店になる。


『誤魔化し花のブローチ』による変装も忘れていない。俺は『二二歳の人族:シーダ』、クゥは『二〇歳の犬人族:ルー』。


 役割としては、俺が接客係、クゥが鍛冶師となっている。


 もちろん、本当に武器屋を営んでいくつもりはない。露店を開いているのは、ホールはく(調べてみたら伯爵はくしゃくだった)と商工ギルドにつながりがあるか、調べるために必要だからだ。


「値が張るとは思いますが、出来できは保証します。よろしければ、試し切りされてはいかがでしょうか?」


 疑い深げな冒険者に、俺は大剣を手渡す。


「まあ、試すだけってんなら」


 溜息をついた冒険者が大剣を握った。


 俺はニッコリと笑顔を浮かべ、冒険者の前に木箱を持ってくる。


「この木箱を斬るってことだな?」

「いえ、斬っていただくのはこちらです」


 言いながら、俺は木箱の上にを載せた。


 冒険者が目をく。


「いや、そいつは無理だろ! いくらなんでも石を斬れるはずねぇじゃねぇか!」


 冒険者が指さすのは、前世でいうところの『漬物石つけものいし』だ。そんじょそこらの武器では歯が立たないだろう。


 冒険者が胡乱うろんげな視線を俺に向ける。


「あんたたち、試し切りで刃こぼれさせて、賠償ばいしょうとして売りつける気じゃねぇだろうな?」

「まさか! そんなことしませんし、その程度で刃こぼれするような武器は、うちにはありませんよ」


「本当かぁ?」といぶかしむ冒険者だったが、根負こんまけしたように嘆息たんそくすると、大剣を上段に構えた。


「文句は言うんじゃねぇぞ!」


 冒険者が大剣を振り下ろす。


 カッ


 小気味よい音とともに、石が真っ二つにされた。


 それだけではとどまらない。大剣は木箱も易々やすやすと断ち、地面にさえ切れ目を入れる。


 石がパカッと左右に割れるさまを見て、冒険者が言葉を失った。


 信じられないと言わんばかりの表情で、割れた石と大剣に、視線を往復させる。


「いかがですか?」


 俺に声をかけられて、冒険者はようやく我に返った。


「ななななんだ、こいつは!? あり得ねぇだろ、この切れ味!」

「ふふんっ! ようやくミア……じゃなくて、ボクの武器のよさがわかったようだね!」


 クゥが自慢げに胸を張る。


 クゥが口をすべらせかけてヒヤッとしたが、大剣の切れ味におののいている冒険者は、気づいていないらしい。


 そう。この大剣は――いや、ここに並んでいるすべての武器は、ミアの『武具創造』スキルで生み出したものなんだ。


 ミアの『武具創造』スキルは、『鍛冶』スキルの上位互換じょういごかん。並の鍛冶師では、これほどすぐれた武器を打つのは不可能だろう。


「お眼鏡にかなうでしょうか?」

「お、おう、もちろんだ! 買う! 買わせてくれ! こんな業物わざもの逃せるか!」


 一も二もなく冒険者が頷いた。


 はやるように貨幣かへいの袋を引っ張り出し、俺に代金を払う。


「にしても、なんであんたたち、こんなとこで商売してんだ? これだけの武器を打てるなら、ブロセルクの一等地で店を出せるだろ?」


 いまにも大剣に頬ずりしそうな顔をしていた冒険者が、ふと、不思議そうに尋ねてきた。


 待ってましたとばかりにクゥが答える。




「結婚資金の調達のためだよ!」

「……はあ?」




 あんぐりと口を開ける冒険者の前で、クゥが俺に抱きついた。


 右腕が、小玉スイカ並の膨らみにムニョンと挟まれ、俺の体温が急上昇する。


「お店を出すのは結婚してからってことにしてるんだよね、シーダ♪」

「そ、そうだね、ルー」


 心底しんそこ嬉しそうに体をすり寄せてくるクゥ。


 俺は声が裏返るのを必死にこらえた。


 これがクゥの提示した設定――『結婚資金調達のため、ふたりで商売を営む恋人』だ。


「ル、ルー? お客さんの前だし、離れようか?」

「えー? ボクたち恋人同士なんだし、いいでしょー?」


 いつもなら、渋々しぶしぶながら離れてくれただろうけど、恋人同士だからなのか、クゥは一層強く俺を抱きしめる。


 俺の右腕は、クゥの胸にますます包み込まれた。もはや『挟まれている』ではなく『埋もれている』だ。


 ス、スキンシップが激しすぎる! 嬉しいことは嬉しいけれど、それ以上に恥ずかしいし照れくさいしむずがゆいぃいいいいいいいいい!!


 顔から火が出そうだ。全身がプルプル震えている。


 イチャつく俺たちを眺め、冒険者は、あきれとねたみが混ざったような、なんとも形容しがたい笑みを見せた。


「そ、そいつはめでてぇな! 幸せに爆発しろよ!」

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