再会した妖精女王の前だが、みんなのスキンシップが相変わらず激しい。――3

「よくおいでくださいました、シルバ!」


 俺たちの姿を目にして、金髪翠眼きんぱつすいがんの少女が破顔した。


 彼女は、妖精女王ニアヴィーア。


 そう。ここは、アマツの森にある『妖精郷ようせいきょう』だ。


「久しぶり、ニアヴ」

達者たっしゃなようでなによりなのです! そちらのお二方ふたかたは、新しい神獣さんなのですか?」


 シュシュとサシャを見て、ニアヴが尋ねてくる。


「ああ。レヴィアタンのシュシュと、ファーブニルのサシャだよ。シュシュ、サシャ、彼女は、妖精郷の女王ニアヴィーアだ」

「ニアヴと呼んでほしいのです!」


 微笑みを浮かべ、親しげに手を振るニアヴに、シュシュとサシャが、ホケー、としていた。


 ふたりとも、どうしたのだろう?


「よ、妖精の、女王さまと、お知り合い、なのですか?」

「ス、スゴいや、師匠!」


 首をかしげる俺に、シュシュとサシャが尊敬の眼差しを向けてくる。


 妖精は、人族・亜人族の前に、滅多めったに姿を現すことのない希少種族。その女王と知り合いとなれば、たしかに驚くことかもしれない。


「ご主人さまは、妖精郷を救ったんだよ!」


 シュシュとサシャが呆然としていた理由に思い当たったとき、クゥが豊満な膨らみをタユンと揺らしながら、胸を張った。


「魔獣の群れから妖精郷を守って、ニアヴと仲良くなったんだ!」

「それだけではありません。魔公ドッペルゲンガーの魔の手からニアヴさまを救うため、果敢かかんに立ち向かったのです」

「あのときのパパ、カッコよかった」


 クゥの尻尾は千切れんばかりに振られ、ミアの耳はピコピコと動き、ピピはムッフーと誇らしげに息をついている。


 まるで我がことのように自慢げだ。


「「スゴいなあ……!」」


 シュシュとサシャが、瞳をキラキラとさせた。


 は、恥ずかしい! 憧れのヒーローと対面した少年みたいな、五人の視線がたまらなく恥ずかしい!


 体中がカッカと熱い。きっと俺の顔は真っ赤になっているだろう。


「相変わらず仲良しですね、シルバたちは」


 そんな俺たちを、ニアヴが微笑ましそうに眺め、訊いてきた。


「今日は、シュシュとサシャの紹介のために訪れたのですか?」


 俺は表情を真剣なものに改める。


「それももちろんだけど、ニアヴに頼みたいことがあってね」





「ブロッセン王国に、他国に戦争を仕掛けようとしている疑いがある……ですか」


 俺の話を聞いたニアヴが、深刻そうな顔をした。


「つまりシルバたちは、ブロッセン王国の調査のために、わたくしたちのアイテムを用いたいのですね?」


 俺は首肯しゅこうした。


 妖精郷には、妖精にしか作れないアイテムが存在する。それらのアイテムは非常に優秀で、対ドッペルゲンガー戦の切り札になったほどだ。


「ニアヴたちにアイテムをねだるのは申し訳ないけど、力を貸してくれないかな?」


 気まずさを感じつつも俺は頼む。


 妖精たちは、妖精のアイテムを目的とした、人族・亜人族に狙われている。


 そのため、妖精たちは人族・亜人族を警戒している。いまは友好的なニアヴも、出会った当初は俺たちに敵意を向けてきた。


 妖精のアイテムをねだられるのを、ニアヴはこころよく感じないだろう。


 俺はそう危惧していた。


「わかりました。わたくしたちは、全力でシルバたちをバックアップするのです」


 だからこそ、ニアヴの快諾かいだくに、俺はポカンとした。


 ニアヴがコテン、と首を傾げる。


「どうしたのですか、シルバ?」

「自分から言っておいてなんだけど、いいの?」

「もちろんなのです!」


 ニアヴが満面の笑みを咲かせた。


「シルバは、わたくしたちの事情をおもんぱかっているのでしょう。しかし、気に病む必要などないのです」


 穏やかにニアヴが続ける。


「シルバたちの心が清いことを、わたくしたちは重々じゅうじゅう承知しているのです。わたくしたちのアイテムを私欲で用いるなど、天地がひっくり返ってもあり得ません。シルバなら、わたくしたちのアイテムを正しく役立ててくれるでしょう」


 それに、


「本当にブロッセン王国が戦争を起こしたら、この世界がおびやかされます。世界の危機に動かなければ、わたくしは女王失格なのです」


 ニアヴがんだ瞳で俺を見つめた。


「それでも後ろめたいというのなら、わたくしのお願いを聞いてくださいますか?」


「お願い?」と聞き返す俺に、ニアヴがイタズラげに口端くちはしを上げる。


「わたくしたちのおもてなしを受けてほしいのです」

「へ?」


 俺は頓狂とんきょうな声を上げる。


 目を丸くする俺に、ニアヴがクスクスと笑みをこぼした。


「妖精郷を救ってくれた英雄たちをおもてなしする――それ以上の栄誉を、わたくしは知りませんから」

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