再会した妖精女王の前だが、みんなのスキンシップが相変わらず激しい。――2

「スゴいなあ、サシャは」

「こんなもんじゃないよ、師匠! オレには、『超越ちょうえつ』スキルって隠し球があるんだから!」


 俺に褒められて嬉しいのだろう。サシャが、輝かんばかりの笑顔で説明してくる。


「『超越』スキルは二四時間に一回しか使えないけれど、一分間、すべての能力値を三倍にするんだ!」

「さ、三倍……!」


 気が遠のきそうになった。


 現段階でも途方とほうもないサシャの力が、三倍になる……想像しただけで身震いがするよ。


「絶対に師匠のお役に立ってみせるからね!」

「あ、ありがとう、サシャ。怖いほど頼もしいよ」


 乾いた笑顔を漏らしていると、サシャが再び拳を振るい、オーガをみじんにする。


「サシャの戦闘スタイルは格闘?」

「魔法も使えるよ!」


「見てて!」と、やる気満々まんまんのサシャがファイティングポーズをとる。


 その体が膨れ上がった。


 髪の色と同じ、真紅の鱗がサシャの全身を覆い、尻尾がぐんぐんと伸びていく。


 背中からコウモリのそれに似た翼が生え、サシャの変容は終わった。


 シュシュの神獣形態レヴィアタンよりも巨大なドラゴン。


 俺はポカンと口を開け、神獣形態になったサシャを見上げる。


「サシャは『ファーブニル』なのか!」


 立ち尽くす俺の前で、サシャが左手を空に向けた。


 その先には、三体のヒポグリフがいる。


「『フレイムバレット』!」


 サシャの左手が炎をまとった。その炎が、手のひらで収縮していく。


 炎の弾丸を放つ魔法『フレイムバレット』。


 サシャが放とうとしている魔法の種類を知り、俺はギョッとした。


「サ、サシャ、ちょっと待った! 森で炎魔法を使うのは――」


 遅かった。


 俺の警告をさえぎって、轟音ごうおんとともにフレイムバレットが射出される。


 まるで艦載砲かんさいほうが撃ち放たれたかのような衝撃に、地面が震撼しんかんした。


 発射された炎も、弾丸なんてサイズじゃない。もはや砲弾だ。


 炎の砲弾が、三体のヒポグリフに直撃し、影すら残さず焼き尽くす。


 だが、当然ながらそれだけではとどまらなかった。


 フレイムバレットの余波が、周りの木々に火をつける。


「あ」と、サシャが声を漏らした。


 俺は慌ててシュシュに指示する。


「シュシュ、消火――――っ!!」

「は、はいぃっ!」


 ビクッと肩を跳ねさせつつも、シュシュはすぐさま動いた。


 空中に漂っている水球を操り、木々の火を消していく。


「ゴゴゴゴメン、師匠――っ!!」


 人型に戻ったサシャが、涙目で駆け寄ってきた。


「オ、オレ、こんなつもりじゃなくて! オレにできることを師匠に教えたかっただけで!」

「わかってるよ、サシャ! 大丈夫だから泣かないで!」

「そ、そう、です! ちゃんと、消火しました、から!」


 真っ青な顔をするサシャを、俺とシュシュは必死でなだめる。


 グスンと鼻を鳴らしながらも、なんとかサシャが泣き止んでくれた。俺とシュシュはホッと息をつく。


「そ、そういえば、主さま? アマツの森ここには、どのような用事が、あるので、しょうか?」


 空気を切り替えるためか、シュシュが尋ねてきた。


 心のなかで「ナイス!」と喝采かっさいし、俺は答える。


「友達に会いにいくんだ」

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