意地の悪い輩だらけだが、勇者は結構いいひとらしい。――6

 レストランに移動した俺たちは、六人で円卓えんたくを囲んでいた。


 もっとも、四人は俺の両脇に椅子を寄せており、ほとんど一対五の構図になっているけれど。


『エリスはなにかたくらんでいるんじゃない?』

『シルバさまにレインボーサーペントの情報を与えても、エリスさんにはなんの利益もありません』

『怪しい』

『わ、罠かも、しれません、よ?』


 優雅な所作しょさでジャーマンポテトを口にするエリスさんをジト目で見ながら、四人が念話ねんわで意見してきた。


『いまの時点ではなんとも言えないなあ』


 シチューにパンをひたしつつ、俺は答える。


『エリスさんに、俺たちを罠にめる必要はない。なにしろ、俺たちはレインボーサーペントについてなにも知らない――放って置いても脅威にならないんだから』


 それなら、


『俺たちを罠に嵌めるために時間と労力をくよりも、レインボーサーペントの討伐に集中するべきだ』


 しかし、


『俺たちにレインボーサーペントの情報を与えることにもメリットはない。むしろデメリットだ。エリスさんに、俺たちを追いかける必要もなかったはずだ』


 だからこそ、わからない。


 罠に嵌めるにしろ、ただ情報を与えるにしろ、どちらをとってもエリスさんに得はない。エリスさんが俺たちを追いかけてきたのは、明らかに無駄な行動だ。


 しばらく頭を働かせて、俺は、ふぅ、と息をついた。


 ……いくら考えても無意味だな。


 スープを吸ったパンを咀嚼そしゃくし、俺は思考を切り替える。


 悩んでいても答えは出ない。ここは一歩踏み込むべきだろう。考えるのは、エリスさんの話を聞いてからでも遅くはない。


 決断し、俺は尋ねる。


「では、レインボーサーペントについて教えてもらえますか?」

「ええ」


 エリスさんがフォークを置いた。


「レインボーサーペントは、その名の通り、七色に輝く鱗を持つ大蛇よ。ランクはA相当。つまり、魔獣ね」


 言いよどむことなく、エリスさんは説明を続ける。


「生息地は、メアの森にある湖沼こしょうよ。ただ、生息地がわかっただけでは討伐できないわ」

「どうしてですか?」

「出現する時間が決まっているからよ」


 エリスさんが窓の外に目をやった。


「レインボーサーペントは、満月の夜にのみ姿を現し、夜空を舞うのよ。その姿が虹のように見えるから、『レインボー』の名で呼ばれているらしいわ」


 俺も同じく夜空に目を向ける。


 ポッサの空には、わずかに欠けた月が浮かんでいた。


「おそらく、レインボーサーペントの出現は三日後よ。その日以外に討伐することはできないわ」

「その情報に偽りはないのですか?」


 真剣な顔付きでミアが割り込んでくる。


 エリスさんは短く答えた。


「信じてもらうほかにないわね」


 説明は終わりとばかりに、エリスさんがフォークをとり、ジャーマンポテトに手をつけた。


 俺と四人は視線を交差させる。


『どう思いますか?』

『エリスの言うことが正しければ、満月の夜を逃せばボクたちの負けだね』

『エリスの言うことが、嘘なら、少なくとも、一日、無駄になる』

『は、判断に、困ります』

『うん。悩ましいところだね』


 俺は渋い顔をする。


「なぜ、あたしがあなたたちに情報を与えたのかわからない――そんな表情ね」


 エリスさんの言葉に、俺はギクッとした。


「教えてほしい?」


 尋ねるエリスさんに、俺たちはゴクリ、と唾を飲んで、頷く。


 エリスさんが明かした。


「そのほうが『主人公』っぽいからよ」


 ちょっとだけドヤ顔だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る