意地の悪い輩だらけだが、勇者は結構いいひとらしい。――2

 三本目の課題が開始された。


 俺たちは神獣形態になったミアの背に乗り、街道を走っていた。


 目的地はポッサだ。


「ご主人さま、どうしてポッサに行くの?」

「レインボーサーペントの情報を手に入れるためだよ」


 俺はクゥに答える。


「ハウトで聞き込みをしたとしても、教えてくれるとは思えないからね」

「たしかに、あのひとたち、意地悪、だし」


 ピピが、うん、うん、とうなずいた。


「それに、ポッサには『冒険者ギルド』がある。あそこなら、モンスターの情報が集まっているし、冒険者にも聞き込みができるでしょ?」

「そ、そう、ですね。冒険者さんたちは、モンスターの討伐も、仕事にして、いますしね」

「ああ。過去にレインボーサーペントの討伐クエストを受けたことがある冒険者が、いるかもしれない」


「「「「なるほどー」」」」と、四人が得心する。


「それでは、全速前進で参りますね!」

「安全運転で行こうか、ミア」


 必要以上に意気込むミアに、俺は苦笑した。




     ○  ○  ○




 その日の夕方にはポッサに到着した。やっぱりミアの速力はすさまじい。


 早速さっそく俺たちは、冒険者ギルドに向かった。


 冒険者ギルドの扉をくぐると、ロビーにいたひとりの冒険者が、ガタッと椅子を鳴らして立ち上がった。


「シルバさん!?」

「先日別れたばかりだけど、すぐに再会できたね、ラウル」


 あははは、と頬をきつつ、俺は彼――ラウルにあいさつする。


 ラウルとの別れはかなり心を打つものだったので、一週間も経たないうちに再会したことが、ちょっとだけ気まずい。


 そんな俺とは対照的に、ラウルは宝物を見つけた子どものように、目をキラキラと輝かせていた。


「シルバさんと別れてからの日々は、むなしくてたまらなかったっす! また会える日を心待ちにしてました! 一日千秋いちじつせんしゅうってやつっすね!」

「恋人か!」


 いまにも感涙かんるいしそうな顔で握手を求めてきたラウルに、俺は思わずツッコむ。


 相変わらず、ラウルの狂信きょうしんっぷりには参ってしまうなあ。尊敬してくれるのは嬉しいけど、もう少し節度を持ってほしい。


「ところで、シルバさんはどんなご用でここに来たんすか?」

「レインボーサーペントっていうモンスターについて調べるためだよ。ラウルは知らない?」

「……すみません。聞いたこともないっす」


 申し訳なさそうに答えるラウルに、「そっか」と俺は嘆息たんそくする。


 落ち込む俺を見て、ラウルがギリッと歯をきしらせた。


 ラウルはグッと拳を握りしめ、


「情けないにもほどがあるだろうが、俺ぇえええええええええええええええええ!!」


 思いっ切り、自分の頬をぶん殴った。


「ちょっ!? なにしてるの、ラウル!」

「シルバさんの力になれない自分が許せないんす!」

「もっと自分を大切にしようか!!」

「こんな俺に存在価値なんてねぇっす! シルバさん、介錯かいしゃくをお願いできますか!」

「いや、生きて!?」


 槍を自分の胸に突き立てようとするラウルを、俺は慌てて止める。


「ラウルは素晴らしいひとだね」

「命をしてシルバさまに尽くそうとする姿勢、天晴あっぱれです」

「まさに、殉教者じゅんきょうしゃ

「あ、あたしたち、いつまでも、忘れません!」

「感心してないで、みんなも手伝って!!」


 追悼ついとうするようにまぶたを伏せた四人に、俺は必死で呼びかける。


 俺たちのドタバタ劇を眺め、冒険者ギルドにいるひとたちがドン引きしていた。

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