完全なるアウェイだが、正々堂々戦いたい。――6

 必死で煩悩を抑えていると、シュシュが顔を上げ、尊敬するような目を向けてきた。


「あ、あたしを、パートナーに選んだのは、この策のため、だったんです、ね!」

「も、もちろん、そのためでもあるんだけどさ?」


 どもりながらも、俺は本意ほんいを伝える。


「シュシュが言ってたでしょ? 『一秒でも長く、俺と一緒の時間を過ごしたい』って」


「ほぇ?」と、シュシュが呆気にとられたような表情をする。


「だから、三人クゥ、ミア、ピピには悪いけど、この課題には、シュシュと挑もうって思ったんだ」

「あ、主、さま……!」


 シュシュの瞳が潤む。


「だ、大好き、ですっ❤」

「シュ、シュシュ! むむむ胸が当たってるよ!?」


 ますますキツく抱きついてくるシュシュに、俺はグルグルと目を回す。


 そんな折り、俺は気付いた。


「シュシュ? 一旦、離れようか」

「……そう、ですね」


 シュシュが、残念そうな顔で抱擁ほうようを解く。


「来ました、から」

「うん――戦いの時間だ」


 一転。


 シュシュのスキンシップに沸騰していた思考を、俺は冷たく研ぎ澄ませた。


 俺とシュシュは、同じタイミングで左右に跳ぶ。


 直後、寸前まで俺たちがいた場所を、ブルベガーが踏み砕いた。


『ここは俺に任せてくれないかな? いまの俺の力を、確かめたいんだ』

『わ、わかり、ました! ご武運を!』


 念話でやり取りして、俺はミスリルソードを引き抜く。


 グッと膝を溜め――爆発させた。


 瞬間、俺は一迅いちじんの風となる。


 またたく間に距離を詰めた俺は、ミスリルソードを横ぎした。


 一拍いっぱく遅れて、ブルベガーの両脚が切断される。


『グオォッ!?』


 ブルベガーが驚愕きょうがくに目を剥いたとき、俺はすでにトドメの一撃を放っていた。


 ミスリルソードがブルベガーの胸を刺し貫く。


 一貫いっかん


 鮮血。


 胸から血飛沫ちしぶきを飛ばし、ブルベガーが灰となって散った。


 フゥ、と俺は息をつく。


 戦闘力が格段に上がっている。スピードもパワーも段違い。あれだけ激しく動いたのに、息ひとつ切れていない。


 デュラハンの討伐で得た経験値は、やはり膨大だったようだ。


 ミアには及ばないし、魔法も使えないけれど、いまの俺の身体能力は、クゥに匹敵するだろう。


 ブルベガーの魔石を拾い、ギュッと握りしめる。


 またひとつ、俺は強くなった。いや、みんなに強くしてもらったんだ。


「ス、スゴい、です! いとも簡単に、倒して、しまいました、ね!」

「みんなのおかげだよ。クゥに、ミアに、ピピに、もちろんシュシュが、俺を強くしてくれたんだ」

「お、お役に立てている、なら、嬉しい、です!」


 心から幸せそうに顔をほころばせるシュシュに、俺も微笑みを返した。


「で、では、ブルベガーの討伐に、向かいましょう!」


 シュシュが意気揚々いきようようと森の奥へ向かう。


 そんなシュシュに、心苦しくなりながらも、俺は伝えた。


「えっと……一緒にいたいって言ってくれたシュシュには申し訳ないけど、しばらく、二手に分かれられないかな?」


 できることならシュシュの側にいたいけど、いまはエリスさんとの勝負の最中さいちゅう。ずっとシュシュと行動をともにするのは悪手あくしゅだ。


 なぜなら、エリスさんがひとりであるのに対し、俺たちがふたりでいることは、圧倒的なアドバンテージであり、『感覚同期』で俺も探索能力を得た現状、二手に分かれるのがもっとも効率的なのだから。


 さっき、『シュシュと一緒に挑もうと思った』って言ったばかりなのに、期待を裏切るようなことをお願いしてしまったな……。


 罪悪感にさいなまれる俺に、シュシュは慈愛じあいに満ちた笑みを向ける。


「か、構いません、よ? あたしは、主さまの、パートナーなのです、から!」


 それに、


「離れていても、きっと、主さまは、あたしのこと、思ってくれます、から!」


 シュシュの口ぶりは、確信しているようにはっきりとしていた。


 自然、俺の顔にも、穏やかな笑みが浮かぶ。


「そうだね。きっと俺は、どんなときでも、クゥ、ミア、ピピ、シュシュみんなのことを思っているよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る