四体目の神獣と再会したが、彼女には事情があるらしい。――2

 推測していた俺の胸に、クゥの両腕が回された。


「は?」


 クゥの予想外の行動に、俺はキョトンとしてしまう。


 ムニョン


 続いて、背中に押しつけられた柔らかな感触に、俺の思考はフリーズした。


「んしょ、んしょ」


 言葉もなく凍りつく俺に構わず、クゥが上下運動をはじめる。


 その動きに合わせ、俺の背中をすべる丸い物体。


 フワフワの柔らかさとプヨプヨした弾力を併せ持つその物体は、俺の背中にフィットするようにかたちを変える。


 俺の思考は、約一〇秒経ってから、ようやく再起動した。


 回復した俺の思考が、背中に押しつけられている物体がなんなのかを導き出す。


 これはクゥの胸だ。クゥは、俺の背中に胸を擦りつけているんだ。


 俺は頬を引きつらせた。


「ククククゥ!? マッサージしてくれるんじゃなかったの?」

「マッサージだよ? おっぱいで背中を擦ってあげると、男のひとは元気になるんだよね?」

「『元気になる』の意味合いが違うんだけど!? というか、元気になったらいろいろアウトだよ!?」


 なにも疑っていないように上下運動を続けるクゥに、俺は悲鳴混じりのツッコミを入れる。


 やっぱりはかってたな、シェイラさん! こんなの、イタズラで過ごせるレベルじゃないでしょうよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!


「はぁ……んっ、きゅぅん❤」


 俺がおののいていると、一生懸命に胸を擦りつけていたクゥが、甘ったるい鼻声を漏らした。


 俺のうなじを、「ハァハァ❤」と荒い息遣いがくすぐる。


 背中に感じるふたつのシコリが、どんどん固さを増していく。


 俺は冷や汗をダラダラといた。


 感じている! クゥが明らかに感じているぅううううううううううううううううううっ!!


「ク、クゥ? もう充分だから、そろそろ終わりにしようか!」


 このままでは、またしてもクゥの性感を開発してしまう!


 危機感を覚えた俺は、クゥを制止しようと声を張る。


 それでもクゥは動きを止めない。むしろ、より激しく胸を擦りつけてくる。


「ご主人さまぁ、ダメだよぉ」

「ダ、ダメってなにが?」

「やめられないのぉ、勝手に体が動いちゃうのぉ❤」

「すでに病みつきになっている!?」

「気持ちいいよぉ、ご主人さまぁ❤ おへその奥がキュンキュンするよぉ❤」

「そこ、キュンキュンしたらダメな場所!!」


 クゥが完全に快楽に溺れている! 早くなんとかしないと!


「と、とにかくマッサージはおしまい!」

「ヤダよぉ、いまやめたら、ボク、おかしくなっちゃうよぉ」

「このまま進めてもおかしくなるんだけど!?」


 抵抗する俺を逃すまいと、クゥがギュウッと抱きついてきた。


 胸だけでなくお腹さえ密着した状態で、クゥが体をくねらせる。


 俺の頭はだる一方だ。


 マズいマズいマズいマズい! 本気で振り払わないと、俺の理性が吹き飛ぶ!


 焦りに駆られた俺は、ブンブンと体を振り、クゥの腕をほどこうとこころみる。


 しかし、それがいけなかった。


 バタバタと暴れているうちに、俺は濡れた床に足を滑らせてしまったんだ。


「うわっ!?」

「ひゃっ!?」


 クゥを巻きこんで、俺は床に倒れる。


 ポニョン


 俺の顔が極上のクッションで受け止められた。


「んきゅうっ❤」


 クゥの嬌声きょうせいが頭上で聞こえる。


 眼前に広がるのは一面の肌色。


 俺はクゥの胸に、顔をうずめていた。


「ゴゴゴゴメン!」


 慌てて離れようと身を起こすと、クゥの両腕が、俺の頭をつかんだ。


「ご主人さま、離れちゃヤダぁ❤」

「うぶっ!?」


 俺の頭が、再び胸の谷間にうずめられる。


 顔を包み込む幸せな感触。鼻腔びこうを満たす、ホットミルクみたいなクゥの匂い。


「ご主人さま、好きぃ❤ 大大大好きぃ❤」


 クゥが俺の頭を一層強く抱きしめた。


 顔中が胸に圧迫され、呼吸がままならなくなる。


(ク、クゥ、頼むから離してくれ!)

「きゃうんっ! ご主人さまぁ、そこ、いいよぉ❤」


 たまらずタップすると、ビクン! とクゥの体が跳ねた。


 タップした部分がやたらポヨンポヨンしていたが、いまの俺には、それがなにか気にする余裕はない。


 息苦しさからなおもタップすると、そのたびにクゥが、「きゃうんっ❤」と可愛らしい鳴き声を上げる。


 やがて、俺の人差し指が、固い感触の粒を押し潰した。


 コリッ


「はきゅっ! きゅうぅうううううううううううううううううううううん❤❤!!」


 クゥの嬌声が浴室に反響する。


 同時、クゥの腕から力が抜け、俺はガバッと起きあがった。


「し、死ぬかと思った……」


 新鮮な酸素を取り込み、俺はやっと一息つく。


 落ち着きを取り戻して下を向くと、クゥが床にくたりと身を投げだし、とろけた笑みを浮かべていた。


 熟れた桃のように上気した肌、トロンと焦点の合わない瞳、口端くちはしからテロンと垂れる舌、時折ピクンと痙攣けいれんする体。


 クゥの嬌態きょうたいを目にして、さあっと血の気が引いた。


 あれ? 俺、またやっちゃった?


「……ご主人さま?」

「は、はいっ!!」


 いまだ脱力したままのクゥに話しかけられ、俺は声を上擦うわずらせた。


「元気になった?」


 俺はチラリと自分の下腹部を見やり、そっと視線をらす。


「うん……悲しいことにね」

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