妖精女王は人族を信じないが、俺だけは別らしい。――2
「な、なにが起きたの? あたし、助かったの?」
三人を
ピピの足指につかまれている妖精が、カタカタと震えながら、視線を右往左往させている。
混乱するのも無理ないよな、ガルムから逃げるのに必死になっていただろうし。
俺はできるだけ穏やかな声で、妖精に話しかける。
「大丈夫? ケガはない?」
「あっ! う、うん」
ビクッと肩を跳ねさせて、桃色のボブヘアをした妖精が答える。
彼女は緑色の瞳に涙を滲ませ、葉っぱを縫い合わせたような貫頭衣を、両手でギュッと握りしめていた。
俺はホッと胸を撫で下ろした。
「それならよかった。ピピ、もういいよ」
「ん。わかった」
無事を確認した俺は、ピピに妖精を解放させる。
解放された妖精は、なぜか驚いたように、「え?」と目を丸くした。
ふわりと宙に浮かび、妖精がしげしげと俺を眺める。
「どうしたの?」
「あなた、人族よね? あたしを脅したりしないの? 『アイテム寄こせ!』とか言わないの?」
尋ねる妖精はオドオドしていた。
妖精の言葉を聞いて、俺は思い出す。
妖精は、『妖精郷』という、人族・亜人族が知り得ない秘境で暮らしており、人前にはめったに姿を現さない。
その理由は、『妖精が人族・亜人族を警戒しているから』らしい。
なんでも、妖精郷には妖精にしか作れないアイテムがあり、そのアイテムを狙った心ない人族・亜人族が、妖精を捕獲しているからだそうだ。
しかし、俺には妖精郷のアイテムなんてどうでもよかった。
「別に脅したりしないよ。妖精郷のアイテムなんてなくても、俺にはこの子たちがいるからね」
なにしろ、いまの俺には頼りになる仲間がいるから。クゥ、ミア、ピピがいるだけで、俺には充分なんだ。
俺が微笑みかけると、三人は、「「「えへへへへ♪」」」と
妖精は、俺たちの様子を見てポカンとしていた。
「じゃあ、俺たちはもう行くよ。きみも気をつけてね」
「ま、待って!」
クエストに戻るために
振りかえって、「なに?」と尋ねると、妖精はギュッと両手を握り、眉根を寄せた切実な顔で頼んできた。
「あなたたちに、妖精郷を救ってほしいの!」
○ ○ ○
「近頃、アマツの森をガルムが
フォルと名乗った妖精に連れられて、俺たちは霧のなかを進んでいた。
この霧は、妖精郷を守る結界の役目を果たしており、妖精の案内なしには越えられないとのことだ。
「あたしたちは食料を確保するため、時折、妖精郷から出ないといけないの。けど、ガルムはそこを狙っているみたい。もう、仲間が何人も襲われているわ」
フォルの表情に
「しかも、ガルムは日毎に増えて、妖精郷を取り巻くようになってきたの。結界があるから侵入はされないけど、このままじゃ
「なるほど。事情はわかった」
俺は
「どうして俺たちに助けを求めたんだ? きみたちは人族を警戒しているんだろう?」
「シルバはひどいことをしないと思ったからよ」
尋ねる俺に、フォルがニコッと笑った。
「さっき、シルバはあたしを捕まえていた。脅そうと思えばいくらでも脅せたはずよ? けど、あなたはそうしなかった。善意だけであたしを助けてくれて、そのうえ、見返りも要求しなかった」
「いや、俺は妖精郷のアイテムに興味がないし、脅すなんてかわいそうじゃないか。それに、困ってるひとを助けるのは当然だと思うよ?」
「口ではそう言っても、行動に移せるひとは少ないものよ? シルバって優しいし、勇敢よね」
フォルがニッと歯を見せる。
そういうものかなあ?
頭をひねる俺に、フォルはクスクスと笑みをこぼした。
「それに、神獣は決して人族・亜人族に従わないのに、クゥもミアもピピも、シルバにはとても懐いているでしょう? これって、シルバがキレイな心の持ち主だっていう
「フォルはいいひとだね!」
「ええ。シルバさまのことをよくわかっていらっしゃいます」
「見る目がある」
「でしょう?」
フォルが誇らしげな顔で、両手を腰に当てて胸を張る。
俺が賞賛されたことが
四人に褒めちぎられ、どこかくすぐったくなった俺は、苦笑を浮かべて頬を
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