俺はFランク冒険者だが、ツレはSランクどころじゃない。――4

 夕方になり、俺とクゥは冒険者ギルドに帰還していた。


「……シ、シルバさん? これは、な、なんでしょうか?」

「えっと……魔石ですね」

「お、多すぎません?」

「ですね。自分でもビックリしてます」


 レティさんが目をゴシゴシこするのを眺めながら、俺は頬をいて苦笑する。


 受付カウンターで、ゴブリンの魔石が小さな山を作っていた。


 数えてなかったけど、ここまでの量になるなんて思わなかったなあ。


「これ、全部本物ですか?」

「レティはご主人さまを疑うの?」

「ひぃっ!! けけけ決してそのようなことはございませんですぅ!」

「クゥ、感情のない目で威圧いあつするのはやめてあげなさい。レティさんにとって、魔石の確認は仕事なんだから」


 俺がたしなめると、クゥは唇を尖らせながらも、「ご主人さまがそう言うなら……」と渋々しぶしぶ引き下がった。


「お、おい、あの魔石の量、一日で集められるもんなのか?」

「いや、少なくともFランクなんかにできるわけねぇだろ。大方おおかた、隠し持ってたんじゃねぇの? ズルだよ、ズル」

「バ、バカ野郎! 神獣の嬢ちゃんがこっち睨んでるぞ!」

「いいい粋がってスイマセン! 自分、ナマ言ってました! だから命だけは! 命だけはぁあああああああああっ!!」


 ロビーの冒険者たちもどよめいている。

 どうやら俺が持ってきた魔石の量は、常識的にはあり得ないらしい。


 レティさんがオドオドとクゥを気にしながら、波長を計測するものと思しき装置に、魔石をひとつずつ載せて、確かめていく。


 魔石を確認すること約一〇分。


「た、たしかに、ゴブリンの魔石に違いありません。というか、ひとつウィル・オ・ウィスプのものが混ざっていたのですが……」

「ボクが潰したんだよ!」

「……ああ、なるほど」


 レティさんが諦めたような目で頷いた。


 レティさんの気持ちはよくわかる。まともな感性のまま、クゥと付き合うことはできないんだ。


「で、では、クエスト達成の報酬に、余剰よじょうのゴブリンと、ウィル・オ・ウィスプの分を上乗せして、八〇〇〇セルをお支払いします」


 カウンターに八枚の銀貨(一枚=一〇〇〇セル)が積まれる。本来の一〇倍の報酬だ。


「また、取得ポイントは一五〇となり、必要ポイントに達したことで、シルバさんはEランクに昇格となります」


 ロビーの冒険者たちが再びどよめいた。


「なんか、皆さん、驚いているようですが」

「初日に昇格なんて事態は、少なくとも二〇年間、起きたためしがありませんから。歴史に残る大記録ですよ。正直、わたしもおののいています」


 レティさんが頬を引きつらせている。

 どうやら俺とクゥは、とんでもない記録をたたき出してしまったらしい。


「やったー♪ ご主人さまが昇格だー♪」


 騒然とするギルドのなかで、われかんせずと言わんばかりに、クゥが嬉しそうに体を揺らしていた。

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