第223話 魔王妃として

 リングピローに乗せられた指輪は、美しい青い光を放っていた。優しく手袋を外し、アゼリアの素肌に触れる。捧げ持った細くも節の目立つ指に指輪を通し、途中で引っ掛かった。むっとした顔で第二関節に苦戦した後、イヴリースは何もなかったように魔法を駆使した。


 亜空間経由で歪ませ、指輪を関節の奥へ通す。普段から剣の稽古を欠かさないアゼリアは、見た目が細くても指の節々はしっかりしていた。そのことを忘れて、付け根部分の太さで作った指輪は……破壊しなければ二度と外れない位置で光る。


「イヴリースらしいわ」


 力技で指輪を通した彼に、くすくす笑ったアゼリアは指輪を確認するように翳した。手をひらひらと動かすたび、青い指輪が輝く。あら、この指輪、継ぎ目がないみたい。


 問う眼差しに、イヴリースは笑顔で頷いた。


「拳大のサファイアを刳り貫いたゆえ、継ぎ目はないぞ」


 愛を示すには重すぎないかしら。聞こえてしまった前列の女性達が顔を見合わせる。拳大のサファイアを用意することも難しいが、透明度が低い石ならばイヴリースが承知しない。つまり王冠に使われてもおかしくない高額な宝石に穴を開け、ほとんどの部分は削り落とされた。


 思いの一端にしては、その愛情の重さが半端ではない。さすが魔王とその番である。感心しながら、ノアールとアウグストは頷きあった。互いに妻である女性達に何か贈ろうと考えていた。ベルンハルトも指輪の質を高めようと、宝物庫の紅玉を再調査する決意を固める。


「値段を想像すると吐きそう」


「やだ、絶対に逃げられないわね」


 おそらく破壊防止の魔法陣くらい刻んでるわよ。下手すれば居場所感知も……。アンネとシャリーヌがふるりと肩を震わせた。急に寒くなった気がするわ。


「とても綺麗、ありがとう」


 お礼を言って頬にキスをしたアゼリアは、すぐにイヴリースに唇を奪われて抗議のために胸を叩いた。まだ指輪をもらっただけで、交換が終わってないわ。儀式を先に終わらせようとイヴリースが譲歩し、唇を開放する。


 苦しかった息を大きく吸い込んで、アゼリアが赤くなった頬を膨らませる。よく見れば口紅が薄くなり、その分イヴリースに移っていた。不思議と似合う。


「琥珀の指輪って、黄金に見えるのね」


 リングピローから摘まんだ指輪も、大きな琥珀の塊から削り出して作られた。濃淡が現れたグラデーションの指輪を、イヴリースの左手の指に嵌める。本来はここで重ねる予定だった唇だが、すでに誓いのキスは終わっていた。それでももう一度と強請る魔王に負けて、アゼリアは受け入れる。


 必要以上に長いキスにぐったりと弛緩したアゼリアを抱き上げ、イヴリースは宣言した。


「ここに我が番、アゼリア・フォン・ヘーファーマイアー・ウルノフ・レシェートニコフ・サフィロスを、魔王妃として定める」


 これで魔王の婚姻は成った。アゼリアは正式に魔王妃となり、イヴリースの妻として認められたのだ。

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