第214話 犯人がバレてる!

 大きい胸が欲しい……そう呻きながら歩き回る妖女の姿が目撃された。妖女に捕まると、「私の胸は大きい?」と尋ねられる。ツルペタの胸を凝視した瞬間、目を抉られるそうだ。そんな噂が広がり、魔王城の城下町は夜の外出を控える者が出始めた。これでは治安が悪くなる一方だ。


「この噂の出どころを突き止めて、してください」


 メフィストは署名した書類を積み重ねながら、目の前に立つ女将軍に命じる。魔王軍として城下町を賑わす噂は無視できなかった。治安に関わる事態ならなおさらだ。バールは少し考えた後、笑顔で切り替えした。


「噂など放置すればよろしいのでは?」


「あなた以外に命じる気はないのですよ。片付けてください」


 言外に事情は把握しています、と脅しをかける宰相に笑顔をひきつらせた。これは完全にバレている。アゼリアに指摘された夜、半泣きで通りすがりの男に尋ねた。ところが凝視して動かなくなった男に腹が立ち、顔面を殴って立ち去ったのだ。それが尾ひれ背びれを生やして泳いだらしい。


 噂を広げた自覚はないが、原因が自分なのは間違いない。


「わかったわ」


 大きく溜め息を吐いて、対策を考えた。噂を消すには、妖女が倒されたところを見せるのが一番早い。アモンに手伝いを頼もうかしら。出来るだけ目撃者は多い方がいいから、まだ明るい時間帯が適しているだろう。悩みながら執務室を出て、ふと我に返る。


「……私が犯人ツルペタだってバレてるじゃない」


 お咎めなしでよかったのか。噂の処理が罰なのか。どちらにしろ、アゼリア姫とのやり取りが発端よね。大きく溜め息を吐き、普段は布を詰めて見栄を張る胸元を見下ろす。とぼとぼと帰るバールの様子に、ゴエティア内は「何か難しい任務か?」とざわついた。


 ゴエティアでも上位の実力者が宰相に呼び出され、命令を受けた帰りは足取りが重い。邪推するに十分すぎる材料だった。ひとつ噂を片付けると、新たな噂を生む。この辺りは人間も獣人も魔族も大差ないようである。


 項垂れて戻った妹から詳細を聞き出し、にっこり笑ったバラムによって彼女は2日間ほど監禁された。仕事に出てこないバールを心配し、アモンは様子を見に覗きを敢行する。危険なら助けに飛び込む決意をした友人の目に映ったのは……。


 いかにバールが魅力的で、今も襲い掛かりたいのを我慢しているか――懇々切々に語るバラム。その膝枕で慰められるバールの姿だった。


「鳳凰種はみな同じだろ? その中でもバールは美人で可愛い。実力もあって、僕のような優秀な兄に溺愛される。価値があるんだよ。胸の大きさなんて、僕は求めてない。バールがバールならいいんだ」


 涙を滲ませて頷く友人の姿に、アモンはそっと……見なかったことにして帰城し、上司にこう報告した。問題ないので有給扱いでお願いします、と。







****************

『彼女が魔女だって? 要らないなら僕が大切に愛するよ』というタイトルで、ヤンデレ系の溺愛ハッピーエンド新作を書き始めました。一緒にお楽しみください(=´∇`=)にゃん

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