第626話、対策会議
ソウヤたちプラタナム号、サフィロ号、ゴールデンウィング二世号は、ウェルド大陸に残っていた銀の翼商会別動隊のタライヤ船『ゴールデン・ハウンド号』と合流した。
早速、ジンを含め、合流しての幹部会が始まるが――
「他の船はどうした?」
銀の翼商会には、他にトルドア船『ゴールデン・チャレンジャー号』とレプリーク船『ゴルド・フリューゲル号』があったはずだが。
「避難民を乗せた輸送船の護衛だ。傭兵同盟の艦隊は全滅したからね」
ジンの答えに、ソウヤは小さく頷いた。
魔王軍の行動に即応できるように備えていたリッチー島傭兵同盟艦隊は、避難民を逃がすためにファイアードラゴンの眷属集団と戦い、全て撃沈されたのだ。
乗っていたのは機械人形たちとはいえ、銀の翼商会にいるフィーアのように、人間のように思考し動く者たちである。その犠牲には、正直くるものがあった。
「そっちのメンバーは、大丈夫か?」
ソウヤは問う。老魔術師は答えた。
「体のほうは無事だった。だが精神的にな。特にセイジとソフィアは」
「……そうか」
真面目な人間ほど、助けられなかったことで負い目や後悔を抱える。避難民を実際に見ているとさらに。
「話を進めよう。今この瞬間も、危機に晒されている人々がいる」
「そうだな」
かくて、幹部会が開かれる。ソウヤ、ジンのほか、ミスト、クラウドドラゴン、レーラ、リアハ、オダシュー、カマル、サフィロ号からエイタとリム、ゴールデンウィング二世号を預かっているライヤーなど。
「やはり、先導する魔王軍の足をまず止めないといけない」
状況確認ののち、ジンはそう言った。
「特にファイアードラゴンとその一派が、魔王軍も攻撃対象としているなら、ひたすらウェルド大陸を横断している魔王軍を止めれば、潰し合ってくれる」
「むしろ、魔王軍をやっつけちゃうかもね」
ミストが舌を出した。
現状、魔王軍が内陸へ進み続けているせいで、ウェルド大陸の人類は、とばっちりを受けている格好である。
リアハが手を挙げた。
「人類連合の動きは? どうなっています?」
「防衛の準備を進めている。北東地域の国々は蹂躙されていてそれどころではないが、エンネア王国、ニーウ帝国、レプブリカ国、クイント王国、グレースランド王国の、ジーガル島攻略作戦に参加した国家群は、艦隊の集結を図っている。我々銀の翼商会が提供したトルドア級戦闘艦も複数隻、戦線に加わる」
「……それって、練度的に大丈夫なのか?」
ライヤーが口を挟んだ。トルドア級戦闘艦は、現在の飛空艇と比べても戦闘力は高めだが、如何せん提供されて日が浅いため、乗員の訓練にそれなりの時間が必要となる。
先のジーガル島攻略作戦に、銀の翼商会提供のトルドア船が参加していないのも、乗員の養成が関係している。
「ジーガル島攻略で、修理中の船の乗員を助っ人に回したり、猛訓練でそれなりの技量に達した艦を引っ張り出すらしい……。それぞれの国の事情はともかく、出せると判断したのだから、そうなのだろう」
ジンは顎髭を撫でた。
「これら人類連合艦隊は、魔王軍の内陸進出に対抗するつもりではあるが……問題はある」
「問題?」
ソウヤは首を傾げる。
「敵の数が多いのか?」
「それもあるが、これをちょっと見てくれ。……クラウドドラゴン」
コクリ、と灰色髪の美女が机の上に、模型らしきものを置いた。
奇妙な物体だった。
逆三角形の島の上に城らしきものがある。島からは無数の突起が張り出していて、全体的に不思議な形をしている。
「これは?」
「浮遊島だ。浮遊城、天空城――まあ、大体そんなものだと思われる」
「爺さんの遺産?」
「残念ながら、私はノータッチだ」
これについては知らないと、老魔術師は言った。
「クラウドドラゴンが魔力眼で確認したが、魔王軍はこれを拠点に、ウェルド大陸を横断中だ。これの周りにも100隻以上の魔王軍飛空艇が随伴している」
「魔王軍の拠点……」
浮遊要塞だとでも言うのか。発掘したのか、あるいは作り出したのか。何とも厄介な代物である。
ライヤーが「すげぇ……」と目を見張る。レーラがおずおずと口を開いた。
「魔王が、いるのでしょうか?」
ドゥラークとかいう先代魔王の息子にして、新たな魔王。一同の間に沈黙が流れる。
「可能性は高い。何せ暗黒大陸があのざまだからね」
ファイアードラゴンたちによって壊滅させられた大陸に、まだいる可能性は低い。
「何より、この空飛ぶ城には、防御用の結界があり、外部からの攻撃を防ぐ。……そうだね、クラウドドラゴン?」
「ええ、ワタシの魔力眼ですら拒む強力な障壁がある。こと防御に関しては、これほど拠点にするのに打ってつけなものもない」
クラウドドラゴンは頷いた。ミストが片方の眉を吊り上げる。
「でもワタシたちは魔王軍を止めなきゃいけないのよね? この空飛ぶ城もどうにかする必要も含めて」
「そうだ。だが、この結界ないし障壁が存在する限り、止めるのも困難だ」
ジン曰く、人類連合艦隊が浮遊城を攻撃しても、魔王は要塞の障壁がそれらを完璧に阻止してしまうという。さらに障壁を展開したまま進み続けることができるので、人類連合艦隊が壁を形成しても、それを砕いて通るだけだけに終わり、足止めすらままならない、と。
「つまり、お手上げ?」
ミストが大げさに肩をすくめてみせる。クラウドドラゴンが言った。
「ワタシたちなら、力を集中することで障壁を突破できるでしょうね。けれど、そのこじ開けた穴は数秒程度で復旧される。とても艦隊が攻撃したり、上陸したりは無理よ」
またも沈黙が、会議室に下りる。――数秒ねぇ。
「まあ、上陸して浮遊城を止めるって手でいいんなら、行けなくはないか」
ソウヤの言葉に、一同の注目が集まる。
「何か名案が?」
「ドラゴンの力で障壁を突破。その数秒の間に、オレがドラゴンに乗って、障壁の穴を抜ければ、城に乗り込んでアイテムボックスで運んだ上陸部隊を展開するってことができる」
「あっ……!」
レーラが声をあげ、仲間たちも驚きつつ、そうか、と頷いた。ジンは言った。
「ソウヤのアイテムボックスを介して、浮遊城に上陸、そのまま城を制圧し、そのコントロールを奪うということだな?」
「それなら島を止められる――」
そう口にしたところで、ふと、ソウヤは思いつく。もしかしたら、アイテムボックスを使って、もっと簡単な手があるのではないか、と。
運べるということは、つまり――
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