第576話、勇者遺産


「それで……どうしてそうなったんです?」


 リアハが半眼になる。ソウヤは肩をすくめようとして、できなかった。


「気分なんだそうだ。オレにもわからない」


 右手にミスト、左手にレーラ。背中にヴィテス。足にフォルスがしがみついていた。――これは酷い。


 レーラにちょっとだけ緩めてもらい、お手紙を配達。


「グレースランド王国から。レーラとリアハ宛」

「ありがとうございます……」


 不思議そうな顔をするリアハ。封を開けて、中身を確認する。


「内容は何です?」


 レーラが問うと、リアハは答えた。


「飛空艇を発掘していたら、古代の遺跡を見つけたそうです。それで、どうも勇者に関係していそうな遺跡なので、ソウヤさんと一緒に来られないか、という内容です」

「へ? オレ?」


 ソウヤは目を丸くする。太ももにしがみついているフォルスが「ゆうしゃー」と笑った。背中のヴィテスが言った。


「勇者といっても、大昔の勇者じゃないの?」


 召喚勇者であるソウヤではなく、その古代の遺跡があった頃の。


「でも、ソウヤが呼ばれたんなら、まったく無関係ってわけじゃないでしょ?」


 ミストがヴィテスを見上げれば、幼女姿の子供ドラゴンは頷いた。


「勇者は勇者」

「大昔のことなんて、オレにはさっぱりわからないぜ?」


 そういうのはジン・クレイマン王のほうが知っているのではないか?


「まあ、レプブリカで商談の後は、ちょっと時間があるから、グレースランドへ行ってみるか」


 ジーガル島攻撃に向けて、関係各所との打ち合わせや、飛空艇の引き渡し作業などもあるが、合間を利用すれば時間を捻出できるはずだった。


「勇者に関係する遺跡か……」

「そこに何かあるのー?」


 フォルスが聞いてきた。ソウヤは足元の彼を見下ろす。


「以前あった別の遺跡じゃ、勇者の神聖剣があった」


 魔王と対決する勇者のために、後世に残された勇者遺産というものである。また新たな魔王が現れようとしている世の中。魔王の息子だという魔族の力がどれほどのものかわからないが、勇者の役に立つものなら行ってみる価値はあった。



  ・  ・  ・



 レプブリカ国は、高原や山地が国土の7割を占めているという。高地には複数の大きな河川があり、作物も場所によって様々なものが作られている。


 首都へ到着したゴールデンウィング二世号。ルス・ボラス辺境伯と共に、ソウヤとジンはカリド王と面会。そして会談となった。


 10隻のトルドア船と、その他、飛空艇用の武装や通信機などの販売契約を結び、ジーガル島攻撃に関しての情報交換をした。


 カリド王の側近とのやり取りを総合すると、レプブリカの保有する軍船7隻の中で、5、6隻を参加させられそうという話だった。


 リッチー島傭兵同盟以外に四か国が、ジーガル島作戦への参加に対し前向きな態度を示した。後は作戦、攻撃日時や参加艦艇などの細部を詰めていくことになる。


 エンネア王国には、すでに飛空艇を引き渡しているが、他はまだ船を渡していない。実際の作戦参加を決めるのは、銀の翼商会が飛空艇をそれぞれ届けてからだ。


 ――急いで船を用意しないといけないな。


 調整も含めて、早めに進めるだけそれだけ実行日が早くなる。どこかで躓くと、想像以上に進行に遅れが出てしまうだろう。


 そして時間をかけるということは、魔王軍に対策や準備を進める時間を与えることになる。


 何せ魔王は、魔族の統一を成し遂げた後に人類へ攻勢を仕掛けてくるとされている。それがいつ頃なのか、今の時点ではまったくわからないのだ。


 魔王軍捕虜の話では、まだ先なのではと言われていたが、所詮は前線の指揮官の言葉。案外早くまとまり、人類に矛を向けてくる可能性も否定できないのだ。


 会談の後、カリド王から逗留を求められたが、晩餐のお誘いだけ受けて後は丁重にお断りした。少しでも早くレプブリカに飛空艇を届けるため、各国との細かな予定があると言って。――まあ、間違ってはいない。


「リッチー島に追加の飛空艇の準備を伝えておく」


 ジンは言った。


「護衛には、こちらに遊撃隊の飛空艇を回そう。今は時間が惜しいからね」

「爺さん、よろしく頼む」


 銀の翼商会所属の飛空艇は、いまニーウ帝国向けの飛空艇群の護衛についているはずである。船を増やしたのに、まだ足りないなんてことになるとは、思いもしなかった。


 道中、魔王軍の妨害が入らないことを祈るだけである。



  ・  ・  ・



 翌日、ゴールデンウィング二世号は、レプブリカ首都を飛び立った。


 目的地はエンネア王国――ではなく、勇者遺跡らしきものが発見されたグレースランド王国である。


「グレースランドも、飛空艇の発掘をやっていたんだな」


 ソウヤは率直に言った。グレースランド王国は、保有の飛空艇が小型のもの1隻だけという、周辺国に比べて明らかに空軍力に乏しい国である。


「一応、発掘はしていたんですよ」


 レーラは、お茶を飲んで一息つく。


「それにお忘れですか? 勇者時代の初代ゴールデンウィング号。あれ、グレースランド王国の発掘品ですよ」

「そうだった」


 今使っている2代目は、エンネア王国の霧の谷に墜落していたものを修理して使っているが、ソウヤの勇者時代に乗っていた飛空艇は、グレースランド王国が発掘、再生させた貴重な船だった。


「私やソウヤ様が魔王討伐に飛空艇を求めていたら、お父様が『よし、じゃあ使え!』と1隻提供してくださった……」

「あの頃は3隻くらいあったんだっけ、グレースランド王国の飛空艇は」


 ただエンネア王国などの周辺国を含め、魔王軍との戦いで、ただでさえ少ない飛空艇が損傷などでさらに稼働できない状態になっていた。


 ほぼ唯一、無傷で残っていた飛空艇が、初代ゴールデンウィング号だったのだ。


 ――グレースランド王には、あの頃からお世話になりっぱなしだったんだな……。


 改めて思い出し、グレースランド王国への恩義を感じるソウヤだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る