第557話、監獄炎上


 リッチー島傭兵同盟の小型エスコートが、パルーチャ監獄の監視塔を電撃砲で薙ぎ払った。


 砕けた石壁や床が破片となって飛び散り、電撃の直撃を受けた魔族兵が黒焦げとなって倒れる。


 監獄の警備兵がクロスボウや魔法杖で反撃しようとするが、飛空艇の攻撃はそれを許さない。


 先行した3隻のエスコートが監獄のすぐ上をグルグルと周回しながら、地上を掃射する。後続の3隻が来る頃には、屋上や監視塔にいる魔族兵は皆無だった。


『こちらウィザード。上陸部隊は降下せよ』


 全体の指揮をとっているジンの声が通信機から響く。


 後続の小型エスコートから浮遊ボートが離れる。リッチー島傭兵同盟の突撃海兵を満載した浮遊ボートは、煙をたなびかせている監獄へと降りていく。


 エスコート5番艦『ウルペース』に乗っていたソウヤたちも、その順番を待つ。


「ワタシたちの出番はまだかしら?」


 ミストが早く乗り込みたくてウズウズしているようだった。ソウヤは苦笑する。


「オレたちは最後だ」


 まず突撃海兵を乗せた4艇が先行する。監獄の中を守っている警備の注意を引くのだ。


「……始まった」


 地上から騒がしい音が連続した。滑り込むように監獄中庭に降り立った浮遊ボート。突撃海兵たちがクロスボウや剣を手に飛び降り、中へ入る扉へと迷うことなく進んでいく。


 中庭にいた魔族兵は、たちまち海兵たちに制圧される。さすがクレイマン王の軍隊。その動きは洗練されている。


「ようし、こっちも降りるぞ!」


 ソウヤたちを乗せた浮遊ボートは、母船である『ウルペース』を離れる。先行部隊は、中庭に降りたが、ソウヤたちは通路屋上だ。何故なら、そちらのほうが目指す皇帝陛下のいる部屋に近いからだ。


 小型エスコートが掃討した屋上に、浮遊ボートは乗りつける。船底がドンと石畳に乗り上げるように止まると、ソウヤはボートから飛び降りた。ミストやリアハもそれに続く。


「カーシュ、ナダ、ここは任せるぞ!」

「了解!」

「お任せあれ!」


 脱出に使うかもしれない浮遊ボートに見張りを残す。オダシューらの斑を乗せた浮遊ボートもフラッドとグリードが護衛に残るようだ。


「オダシュー、そっちは頼むぞ!」

「了解です、ボス!」


 オダシューたちは、比較的ランクの高い人間が収監されている一角の制圧に向かう。ガルにセイジ、ソフィアとティスと、こちらのメンツも豪華である。


「突入だ!」


 ソウヤは斬鉄を手に駆ける。一度降り立ったらここは敵地。素早く移動し、目的を達するのだ。続くのは、ミスト、リアハ、レーラ、メリンダ、そしてカエデだ。


 魔族が皇帝を人質にしようなどと考える前に突破する!



  ・  ・  ・



 リッチー島傭兵同盟は勇敢に戦った。監獄内へ侵入を果たした突撃海兵は、通路を猪の如く猛進し、出てくる看守を有無を言わさず突進、刺殺した。


 魔族兵も『何者か!?』と確認することすら許さない一切の躊躇いのなさだった。


 牢獄にいた囚人たちは、砲撃音が連続したことで、すでに何事かが起きているのはわかっていた。


 むしろ、あの騒ぎに気づかないわけがない。そして侵入した謎の戦士団員が、看守を倒していくと、鉄格子を叩いて歓声をあげた。


「おおーい! ここを開けてくれっ!」

「出してくれェ!」


 鉄格子に詰めかける囚人たちだが、突撃海兵たちは最初見向きもしなかった。


「おい! 出してくれよ!」

「助けてくれー!」


 囚人たちの声を無視して、看守の掃討を優先させる。ヘタに牢から出すと、敵の排除の邪魔になるからだ。


 少人数しかおらず、敵が多いなら囚人を解き放って、監獄内を混乱に陥れる手もある。だがリッチー島傭兵同盟は場をいたずらに掻き回して、任務に支障をきたすのを嫌ったのだ。


 監獄の警備兵は、1階および中庭へと集まりつつあった。謎の侵入者たちが囚人を解放したら、監獄はカオスと化す。それに対処すべく最低限の見張りを残して、下へと向かったのである。


 かくて、ソウヤたちは、看守がほとんどいなくなった上部階層を驀進した。


『侵入者!』

「おっそーい!」


 飛び込んだミストの竜爪槍が、オーク兵を串刺しにした。


「ここの連中、変装すらしていないわね! 曲がりなりにも、帝国の収容所よねここ?」

「正体隠す気ないよな、ここの奴らは!」


 皇帝が収監されている部屋は、すぐそこだった。しかしさすがにニーウ帝国の最重要人物の部屋の前だけあって、魔族兵が複数いた。――魔術師タイプもいる?


 ソウヤはアイテムボックスから、投石機用の大岩を出すと、それを力一杯吹っ飛ばした。重装盾で壁を作ろうとした魔族兵をボウリングの如く薙ぎ倒す。


「ストライクだ、この野郎!」


 大岩に弾かれ、そして壁と挟まれ潰れる敵。ミストが呆れた。


「その先は皇帝がいるんでしょ? 気をつけてよね」


 大岩の直撃で扉が吹っ飛び、中にいる人に当たってしまった――という事態を想像したのだろう。


 デンと立ち塞がる大岩をアイテムボックスに再度収納するソウヤは苦笑した。


「ちゃんと加減したから大丈夫」

「加減……?」


 リアハが、その扉を見て眉をひそめた。


「何かへこんでいるみたいですけど……? 取っ手が潰れてますし」


 扉の一部がひしゃげているようだった。


「ぶち破るさ。……カエデ。中の様子を頼む」

「わかりました」


 カエデが扉の前でしゃがむと、仕込んでいたシェイプシフターを出して、扉の隙間から中へ入れて確認させた。


「大丈夫です。扉の前に誰もいません」

「よし、じゃあ――吹っ飛ばす!」


 ソウヤは斬鉄を振り上げ、ひしゃげて、いかにも開かなくなった扉に一撃を叩き込んだ。ズゥンという轟音一回。巨大魔獣でさえへし折る豪腕勇者のパワーが扉を破壊した。


「……鍵いらずですね」


 レーラが言えば、メリンダは首を振った。


「ほんと、乱暴なんだからもう……」


 ソウヤは中へ入った。


 そこにひとりの人間がいた。目的の人物――ニーウ帝国最高指導者である、ブロン皇帝が。

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