第505話、魔王の在処


「ミストや影竜たちのおかげで、魔王軍の拠点のひとつの場所が明らかになる」


 ソウヤがミストらへと視線をやる。ニヤリとするミスト。一方、影竜はぼーっと虚空を見上げている。


 カマルが首を傾げた。


「大丈夫なのか……?」

「魔力眼で、敵船を追跡しているせいだ」


 ソウヤは苦笑する。


「正確な場所は、追跡してもらうとして、連中が行く先についてだが――」


 魔王軍の捕虜、コルドマリン人のズィトンから聞き出した情報をソウヤは披露した。


「ジーガル島に、魔王軍の大軍港があるそうだ。そこには連中の浮遊装置が運び込まれていて、さらに十数隻の飛空艇用の建造施設がある」

「ダンジョン以外でも連中の大規模建造拠点があったか」


 カマルは苦い顔になった。ソウヤは続ける。


「さらに、暗黒大陸より北方にアウターズと呼ばれる島があるらしいが、ここにも飛空艇が十数隻駐留する巣みたいなところがあるらしい」

「アウターズ……聞いたことがないな」

「何でも、人間には知られていない孤島らしい。魔王軍の飛空艇艦隊は、このダンジョンを含めて3カ所で建造、整備されている」

「確かなのか、ソウヤ?」

「魔族兵から聞き出した情報だ。クロスチェックは必要だと思う」


 ズィトンが嘘をついている可能性もないわけではない。どんな尋問、拷問で得た情報も、確認されるまでは正しいかわからないものである。


「魔王軍は、十年前の敗戦から今まで、来たるべき魔王復活のために設備を用意し、艦隊を建造していた。世界が平和を謳歌している間に、見えないところでせっせと準備してきたんだ」

「十年、人類は後れを取っているというわけか」


 ジンが考え深げな顔をすれば、カマルは唸る。


「魔王亡き後、魔族が急激に姿を消したのは、その反撃のためだったということか」


 ソウヤ自身は魔王と相打ちの形で意識を失っていたが、魔王が消えた後、各地に展開していた魔王軍は侵略を止めて引いていったという。


 すぐに次の指導者を立てて、さらなる侵攻を続けていれば、状況もまた違っていたに違いない。


「それで、現在の魔王軍なんだが、魔王を復活させようとする計画を進めていたのは確からしい」


 人間の魂を集めて、それを贄に魔王の魂をサルベージするというのがそれだ。


「だが、上手くいっていない。その原因は、復活させようという魔王の魂が、冥界とやらに存在していないかららしい」

「この前、捕らえた魔族の魔術師も冥界から魔王の魂を呼び出すとか言っていたな。……しかし上手くいっていないって?」

「死者の行き着く場所らしいが……連中は、魔王の魂を見つけていないらしい」


 ソウヤは肩をすくめた。


「確かなことは、魔王は復活できていないし、復活させる目処も立っていないってことだな」

「何故、魔王の魂が冥界に存在していないのだろうか?」


 カマルが言えば、ミストがチラとソウヤを見た。理由は簡単だ。


「魔王が死んでいないからだろうな」

「何だって!?」

「そういえば君は、その時も意味深なことを言っていたね」


 ジンは目を細めた。


「冥界とやらに、魔王の魂はあるのか、と」

「爺さんも『召喚元が間違っていたら召喚できない』とか言ってなかったっけか?」

「別世界にでも飛ばされたなら、冥界とやらを探しても無駄じゃないかと思っただけだよ」

「ソウヤ、魔王が死んでいないというのはどういうことだ?」


 カマルは前のめりになる。


「お前が魔王を倒したのではなかったのか?」

「まあ倒したと言っていいんじゃないかな。ほぼ死ぬところまで追い詰めたし」

「どういうことだ? ドトメを刺していないのか?」

「逃げそうな雰囲気だったし、俺も意識がいつ切れるかわからなかったから、アイテムボックスに放り込んだんだよな」


 瀕死のまま、時間経過無視のアイテムボックスの中。実質、封印である。


「外から干渉する手立てがない限りは、オレが出さなければ永遠に出てこれない。もし俺が死ねば、たぶんそのまま開ける手段もなくて、魔王も完全におしまいだろうな」

「……」


 カマルは固まっている。まったく知らなかった真実に触れて、考えがまとまらなかったのかもしれない。


 それまで沈黙を守っていたクラウドドラゴンが口を開いた。


「アイテムボックス内の魔王が自力で出てくるという可能性は?」

「ない。時間経過しない空間だから、魔王の意識もアイテムボックスに引き込まれた瞬間で止まっている」


 十年前で、完全に制止したまま。同じく瀕死でアイテムボックス内に収容されていた勇者時代の仲間たちも、あいだの十年が止まっていたために、外の世界の変わりぶりに混乱していた。


「あ、今の話、ここにいる者以外、口外しないようにな。もちろん銀の翼商会のメンバーでもだ。もしこのことが魔族の耳に入ったら、魔王を復活させようとここへ殺到するだろうからな」


 魔王復活の件で突っ込まれたから、ここにいるメンバーには話したが、知らないのが一番の情報秘匿手段である。


「で、話を戻すが、予定していた方法で魔王が復活できないとなって、ようやく連中は新しい魔王を立てることに決めたらしい」

「先代魔王がいなくなって十年……」


 ミストが机に肘をつく。


「それまで新しい魔王が出てこなかったというのは、不思議な感じ」

「前の魔王がそれだけ崇拝されていたってことなんだろう」


 ソウヤは言ったが、今のは完全にズィトンの受け売りだ。彼曰く、先代魔王の後継の座を狙う者もいたが、先代からの重臣たちがそれをよしとしなかったらしい。


 あくまで、先代の復活にこだわった結果、魔族間でも争いが起きて、その内部抗争の結果が、ここ十年の人類の安寧だったという皮肉。


 ジンが首を傾げた。


「すると、ザンダーの一派も、魔王争いで現在の魔王軍と争った勢力なのかもしれないな」

「それが事実なら、そんな連中に深入りするのは危険じゃないかしら」


 クラウドドラゴンがもっともなことを口にした。協力した結果、別の魔王が登場となれば意味はない。


「どうかな? 魔王次第じゃないか?」

「どういうことだ、爺さん?」

「人類と敵対しない魔王だったなら、魔族をまとめる者として存在してもいいと思うがね」


 要は魔王という肩書きだけで、敵視するのは早計ということだ。


 カマルが咳払いした。


「それより、今の魔王軍が立てようとしている、次の魔王については何かわかっているのか?」

「捕虜の話では、ドゥラークという名の魔族だ。先代魔王の息子らしい」

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