第504話、拡大する飛空艇事業


 ルガードークで飛空艇の建造事業を進めていたら、お膝元であるエンネア王国が購入予約をしてきた。


 例の魔王軍の飛空艇関係の製造施設の存在が明るみになったことで、王国の尻に火がついたようだ。


 対策もなく放置していれば、大飛空艇軍団による魔王軍侵攻に抵抗できない、というところだろう。


 ソウヤは、ジンとカマルから報告を聞き頷いた。


「まあ、元から売るつもりで作った船だ。買い手がついたんだから、投資した分の回収の目処がついて安心していいだろう」

「これで何もなければキャンセルなんて可能性もあるが――」


 カマルは皮肉げに言った。


「敵は魔王軍だからな。それはあるまい」

「仮に魔王軍が侵略しなかったとしても、どの道、王国は買ってくれただろう」


 ジンが指摘した。


「ルガードークひとつで作れる第一弾の分だけならね。ただ、今後の需要を考えると、ルガードークだけでは全然足りない」

「魔王軍への対策が急務になりましたからね」


 カマルは首肯した。


「ソウヤ、国王陛下曰く、王国保有の飛空艇関連施設での建造も本格始動となるそうだ。これまでは整備、修理しかできなかったが、性能のいい人工飛行石の量産化で、独自建造に弾みがついたからな」

「素材がいるな」

「木材はもちろん、金属部品。そして何より飛空艇用の人工飛行石が必要になる。この人工飛行石を安定量産できるのは、銀の翼商会だけだ」

「独占だな」


 はて、特許とっていたっけか――考えるソウヤにジンが顎髭を撫でた。


「王国側と話はしてある。銀の翼商会の独自商品として特許が認められた。もっとも、うちの商会は王国の魔術団の面々がいて、人工飛行石の製造技術を身につけているから、ライセンス契約を結ぶ格好で、ケリになるのが妥当だろうがね。……そこはリーダーであるソウヤ、君が判断を下すところだ」


 なるほどお膳立ては済んでいるわけだ。ロイヤリティがもらえるなら、銀の翼商会自体の製造負担が減るから、ライセンス生産をどんどん認めるべきだろう。


 それでなくても、この商会はやることが多い。


「今後、飛空艇界隈が活発化するから、それに関連した素材や商品がドンドン売れるだろう」


 ジンは言った。


「そしてそれらの分野の複数の事柄において、ソウヤの銀の翼商会は最先端を行っている。莫大な利益を得ることができるだろう」

「飛空艇関係が盛り上がっていくだろうなって、思ってはいたが……まさかここまで急激に需要が出てくるとは」


 それもこれも魔王軍の活動のせいだが。彼らが軍備を整えなければ、ここまでとんとん拍子に話は進まなかったはずだ。


「先見の明だな」


 カマルが微笑した。


「あれば売れる業種に、率先して動いた結果だろう。誇れ」

「いや、うちには優秀な魔術師殿がいたからな」


 ソウヤはジンへと視線を向けた。


「卓越した人材がいればこそだと思うよ」


 様々な革新的技術を開発できたこと。それを扱える頭脳と経験、技術を持つ者がいたからできたことだ。


「お褒めに与り恐縮だがねソウヤ。そういう人材をきちんと確保したのは君の手柄だ。私のような怪しい老人を手元に置いたのは君だからね」

「卵かけご飯が忘れられなかったからな」


 採用のきっかけを思い出し、ソウヤは微笑する。懐かしかった。


 モンスタードロップ目当てにダンジョンで素材集めていた駆け出しの頃。行商として移動し、ダンジョン産のものを売り、現地素材を買って別の場所で売る。


 製品を独自開発できるようになってから、一気に銀の翼商会は拡大。フットワークの軽さで、国中を素早く移動することで、収益もドンドン増えた。


「あの頃から、かなり大きくなったよな」


 人が増え、魔法大会で王国に銀の翼商会の名が轟いた。ソフィアやセイジの成長。商品ではないが、知名度アップに貢献し、注目商会となった。


 遺跡や財宝を手に入れたこともあるが、二隻目の飛空艇を建造しようと思ったら、飛空艇業界を大きく盛り上げることになっていた。


 できることをチマチマやっていたら、こんな大事になっていた。先見の明とか、最初はそんなこと考えていなかったのに、というのがソウヤの正直な感想である。


「そういえば二隻目ってどうなったの?」


 話を聞いていたミストが口を挟んだ。ソウヤはジンとカマルへ視線を戻す。


「そういや、どうなるんだ? ルガードークに依頼した船全部となると、オレらが船作ってる余裕はなくね?」

「王国は一隻でも多くの船を求めている」


 カマルが眉間にしわを寄せた。


「性能のいい船は特にな」

「ルガードークで二隻目を建造するのは諦めたほうがいいだろう」


 ジンはキッパリと言った。


「少なくとも、王国の目があるところで、優秀船を作ろうものなら、間違いなく高額でも手に入れようとするだろう」

「何とかならないのですか?」


 レーラが不安げに言えば、静かにお茶を飲んでいたヴィテスがボソリと言った。


「目の届かない場所」

「そういうことだ」


 ジンが大きく頷いた。


「私に当てがある。二隻目はそこで作ろう」


 ダンジョン木の製造ダンジョンなんて作っていたクレイマン王である。心当たりがあるのだろう。浮遊島かな、とソウヤは思ったが、知らない者もいるので口には出さなかった。


「それとは別にソウヤ。今度、飛空艇関連の素材関係の品が大きく動く。今後、銀の翼商会本来のやり方である、ダンジョンからの素材集めや発掘作業が増えると思う」

「あの頃と、根本的にやることは変わらねぇということだな」


 ソウヤは苦笑したが、すぐに表情を引き締めた。


「ただ、魔王軍の動きもある。オレたちもできる範囲で、その野望を阻止して行こうと思う」


 今後の方針として、それは知らせておく。もし反対があるなら、早めに出してほしかった。ついていけないというなら、早期に退職も勧める。


「魔王軍を探るために、魔族について情報を集めている」


 カマルはソウヤを見た。


「そっちはどうだ? 敵の飛空艇を追跡していると聞いたが……?」

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