第417話、見方の問題
「装置に操られて攻めてきたのではなく、装置が壊されないように守りにきた……。リアハはそう言いたいんだな?」
「確証はありませんけど、ここに魔獣が集結した理由にはなるかと」
リアハは視線を、結界の外へと向けた。
必死に向かってくる汚染魔獣たち。砦への侵入者を排除する、という意味では間違いないが、その内容については意味合いが変わってくる。
「じゃあ、外に制御装置はなくて、いくら探しても見つからないかもしれないってことか」
「試しに、この砦の装置を破壊すれば、わかると思います」
「壊して魔獣たちが死ねば、それで終わり。まだ動いていれば、別の装置があるってことだな。よしわかった」
ソウヤは身を翻した。
「装置をぶっ壊すぞ。リアハ、来い!」
「はい!」
ソウヤとリアハは砦の中に戻った。ジンがいる部屋にいけば、巨大魔石はそこにあった。
「おやどうしたね、ソウヤ」
老魔術師は石段に腰を下ろしていた。手のひらを広げた左手には、何やら青い魔力の塊のようなものがあって、それが結界に関係する何かだろうと、ソウヤは思った。
「爺さん、使い魔を飛ばしている連中は、制御装置を見つけられずにいる」
「いま少し耐える必要があるということか」
静かにため息をつくジン。ソウヤはリアハにちらと目をやった。
「それなんだが、ひとつ意見が出てな。もしかしたら外に装置はないんじゃないかって話だ」
「詳しく」
ジンは促す。ソウヤは続けた。
「つまりだ、押し寄せてきた魔獣どもは、操られて攻めてきたんじゃなくて、そこの装置を守るために集まってきた説さ」
「フム」
老魔術師は顎髭を撫でた。リアハは巨大魔石の装置を見て、不安な顔になった。
「そう思ったんですけど、ちょっと自信がなくなりました」
「というと?」
「ここの装置を、ジン様や他の誰も触ってないじゃないですか。なのに、どうやって魔獣たちはここに集まったのでしょうか?」
「ここでの出来事を知りようがないのに魔獣どもは集まってきた」
ソウヤは考える。
「……そうなると、外に制御装置を使っている奴がいるってことに戻るわけか?」
「いや、そうとも言えない」
ジンが口を開いた。
「リアハ、君の意見はまだ否定されていない。何故なら、外にいた魔獣たちが集まる可能性ともなる行為がこの部屋であったのだ」
「何か触ったのか?」
ソウヤが聞けば、ジンは焼け跡の残る室内を指さした。
「爆発物トラップが仕掛けられていただろう? あれの爆発がトリガーになって、装置が範囲内の汚染魔獣に緊急招集の指令を発した……」
ジンの防御魔法で居合わせたソウヤたちは難を逃れた。だがトラップが発動することは、すなわち制御装置の危機ということでもある。
「辻褄が合うな。じゃあ、やっぱこいつが、魔獣を呼び寄せた」
ソウヤは斬鉄を出した。
「んじゃ、こいつをぶっ壊す!」
「ああ、やってくれ。それで収まればよし、収まらなければ別の手を考えよう」
ジンが頷いたので、ソウヤは制御装置、その巨大魔石を斬鉄で叩いた。
「最初に、これを壊せばいいって言ってたの誰だっけ?」
「ミスト嬢だ」
「彼女の言うとおりにしておけばよかったな」
魔石が砕けた。勇者の豪腕は石をも砕く!
「ようし、これでいいな?」
バラバラに砕けた巨大魔石。装置の魔道具部分も念のため叩いて壊す。
「大気にまだテリトリーの証である成分が残っている。効果が出るには少々時間が必要だろう」
「空気の入れ替えが必要ってか?」
ソウヤは苦笑する。表ではゴールデンウィング号とドラゴンたちが戦っている。放っておけば汚染魔獣は死ぬが、まだしばらく戦い続けてもらわないといけない。
「いや、そうでもないか」
「ソウヤさん……?」
リアハが首をかしげる。
「何かアイデアでも?」
「アイデアというか、大気を操るクラウドドラゴンに、風をちょっと操作してもらって空気を入れ替えられないかと思って。そういうの、得意だろう?」
「たぶんな、頼んでみるといい」
ジンは頷いたが、ソウヤは首を横に振った。
「爺さん、念話を飛ばしてくれよ。オレは使えないからさ」
「……仕方ないな」
「ところで気になっていることがあるだが、このぶっ壊した装置が作用して、汚染魔獣を生存させる大気を発生させるって聞いたが、その空気ってオレたちが吸って影響はないのか?」
もう二日ばかり、この汚染魔獣のテリトリーにいるソウヤたち銀の翼メンバーである。
「体に悪影響が出るなんてことは? 汚染された空気にさらされれば、どんな健康人間だって病気になったりするぜ?」
「数週間、数カ月前もいれば、体が汚染魔獣同様に作り替えられる可能性はある。だが数日程度では、影響はほぼないよ」
「鑑定の結果か?」
「そう、鑑定の結果だ」
ジンは断言した。ソウヤはホッとする。魔法での鑑定なら間違いはない。
「それならいい。もう、そのヤバイ大気もなくなるんだろ?」
「ああ、すぐ霧散する。ただ、この辺りの土壌が自然に戻るまでには、いくばくか時が必要になるだろうね」
そこでジンは石段から立ち上がった。
「クラウドドラゴンに念話で伝えた。
「そうしよう」
汚染大気にいた、と聞けば、影響がないと聞かされても不安がる者はいるだろう。
部屋を出て、砦の外へと向かう。外がだいぶ静かになってきていた。もう効果が出始めて、戦いが終わったのかもしれない。
外に出ると、穏やかな風が頬を撫でた。
「ソウヤ」
外にいたカーシュとダルが振り返った。
「うまくいったようだね。魔獣たちがバタバタと倒れているよ」
死屍累々。砦の全方位を包囲した魔獣たちが、地面に倒れていた。足の踏み場もないとはまさにこのこと。死体がまるで海のようにも見えた。
見上げれば、クラウドドラゴンが空中に浮かび、全周に風を送っているようだった。吹き抜けていく穏やかな風が心地よくもあった。
「とりあえず、終わったかな……?」
ギガントコングの姿は結局見ていないが。
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