第370話、呼び出されるソウヤ

 

 魔法大会優勝者がインタビューで意中の女性に告白するなど、前代未聞の出来事だった。


 ジンは平然と見守っていたが、ソウヤは、まさかセイジがソフィアに告白するなど思っていなかったから、ビックリしてしまった。


 周りも当然大騒ぎで、何が何だかわからないが、とにかく興奮した客席の喧噪がしばらくやまなかった。


 やがて、セイジとソフィアにはメダルの授与がされたのだが、その渡し役であるイリクはいつもより険しい表情だった。


 昨日までのシューティングやトーナメントでは、娘であるソフィアの活躍に頬が緩まないように耐えていたイリクも、目の前で娘が告白されるのをまのあたりにして、心中穏やかではなかった。


 その後、国王の挨拶をもって、大会は閉幕となった。


 おわったー!――見守ったソウヤだったが、それで終わりとはいかなかった。


「陛下が、ソウヤ様をお呼びでございます」


 使者がやってきて、アルガンテ王からの呼び出しを告げた。


「爺さん、何だと思う?」

「ソフィアのこと、あとセイジのこともあるかもしれない」


 ジンは視線を合わせようとはしなかった。


「陛下は、セイジが銀の翼商会の一員だとは知らないと思うが、あれほど派手な告白をした後だ」


 会場はまだざわついている。


「イリクはソフィアに告白された直後で、彼女に話を聞きたがっているだろうね。その件で、セイジが同じ職場にいたとなれば……」

「ややこしいことになる、ってか」


 ソウヤは小さく首を振った。


 凄い大会だったね、で済めばよかったのに、優勝関係者が同僚ともなると、他人事では済まないようだった。


 さて、王からの呼び出しだ。正当な理由もなく、お断りはできない。大会の余韻の残る会場をよそに、ソウヤとジンは王族ボックス席へと移動する。


「大会の上位者ともなると、色々なところから勧誘されるものだ」


 ジンは言った。


「大会後の祝賀会は、さぞ大変だろうね」

「ソフィアとセイジは、それぞれ優勝者だからな」

「セイジは、マスクを被ったままでいれば、敬遠してくれた者もいただろうが、あの人のよさそうな顔と言動のせいで、かなりスカウトされると思うよ」

「ギャップだったもんな。オレらはあれが普通だってわかっているけどさ」


 周りには虎マスクをしている蛮族出身だと思われていた節がある。イメージというものは怖い。


「だが、セイジもソフィアも君の商会のメンバーだ。君のところにも人が集まってくるだろうね」

「……そうなるか」

「王様に呼ばれたということは、おそらく祝賀会にも出ろと言われる可能性があると私は思うね」


 きっぱりとジンは言った。


「あまりそういう場は得意じゃないんだがな」

「私もだ。肩がこるからね」


 冗談めかす老魔術師。


「まあ、その前に王様やイリクを含めて、どこまでカオスなことになっているか……」

「脅かすなよ」

「覚悟はしておいたほうがいいと思うよ、ソウヤ」


 ジンはのんびりした調子で言うのだった。



  ・  ・  ・



 ボックス席の奥の控室に通された。


 そこにはアルガンテ王がいて、イリクがいて、セイジとソフィアもいた。


 ミストとリアハも場にいて、リアハはアルガンテ王と談笑中だった。


「おお、ソウヤ。よく来たな。こっちへ」


 王は手招きした。ソウヤとジンは移動する。


「陛下」


 まずはお辞儀を――


「堅苦しいのはなしだ。いま、イリクを交えて話を聞いていたのだが、ティーガーマスケ、お前のところで働いている男らしいではないか!」

「ええ、セイジはうちの商会メンバーです」

「大会を制したのが、銀の翼商会の二人とは。俺も驚いたぞ」

「はい、オレもビックリしました」


 そんなあっさり優勝できるのか、実を言うと信じていなかったソウヤである。並み居る強豪を相手に、ソフィアとセイジがどこまで通用するのか、期待はしていた。


 だがミストやジンが言うように、確信めいたものがあるわけではなかった。


「そうなると、銀の翼商会というのは、精鋭中の精鋭だな。王都の近衛騎士団よりも強いのではないか」


 かたや勇者。かたやドラゴン。かたや伝説の魔術王。六色の魔術師にティーガーマスケ。それに、聖女に姫騎士に、かつての勇者パーティーの精鋭やカリュプスという暗殺集団の元メンバーたちがいる銀の翼商会。


 ――うん、強い!


「冒険者として白銀の翼をやってますので、有事の際はお力になれるかと」

「魔王軍の攻撃などだな」


 一瞬、アルガンテ王の表情が引き締まった。


「その時は、ぜひに力を貸してもらいたい」

「はい」


 ソウヤは頷いた。魔王軍といえば、昼の休憩の時の一件が――


「ソウヤ殿! ジン殿!」


 イリクが口を挟んだ。


「私からもよろしいでしょうか?」

「あ、はい。どうぞ」


 勢いで頷かされてしまった。宮廷魔術師である彼が、普段の冷静さを欠いているように見えた。


「ソウヤ殿は、どこまでご存じだったのですか? うちの娘が、この――セイジ君と、恋仲にあるなど!」


 ――やっぱ、お父さん的にはそこが気になるよなぁ。


 これまで実家で放っておいたのに、このあたりで父親面するのはどうかと思わなくもないが、過去は過去、今は今。親としてあろうとする姿勢は、ないよりはあったほうがいい。


 まあ和解は済んで、親子仲はよさそうだから、それに対する突っ込みは野暮というものだろう。


「なんとなく好意を持っているんだろうな、という気配はありましたが、正式にお付き合いをしていたかについては、オレは知りません」


 思い返してみれば、確かにセイジは、ソフィアに好意を抱いていたな、とソウヤは思い出した。


 イリクは腕を組み、ソフィアを見た。


「お前はどう思っているんだ? 彼のことを?」

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