第367話、決勝戦。ソフィア VS ティーガーマスケ
魔法大会最終日、トーナメントも最後の試合の時が訪れた。
六色の魔術師ことソフィア・グラスニカVS謎の覆面戦士ティーガーマスケ。
どちらも今年の大会初出場の新星である。並み居る強豪を叩き潰し、ついに最終決戦である。
どよめく観衆たちの視線がリングに集まる。すでにふたりは対戦相手を睨みつけている。
「よくここまで勝ち残ったと褒めてあげるわ、セイジ。いえ、ティーガーマスケ!」
「僕も、決勝まで残れるとは思っていなかった」
左手に魔法カード、右手にはショートソード。
「でも君と戦う時までは負けたくないって思ってた」
「私に勝つつもり?」
「負けるのが嫌なら、棄権していた」
でもそうじゃない。つまり――
「やる気はあるってわけね」
「この大会は、ソフィアにとってアピールの場だ」
ティーガーマスケの呼吸が、暗殺者のそれに変わる。
「せいぜい、最後は派手にアピールするといい。簡単に終わったら、つまらないだろ?」
「……生意気」
ソフィアは好戦的な笑みを浮かべ、杖を構えた。
「簡単に終わらないでよ? 大口を叩いたんだからね」
実況の声が響き、客席のボルテージは最高潮に達する。
審判員が手を上げた。
「それでは、決勝戦……始め!」
「ファイアランス! ×30!」
ソフィアは前日にティーガーマスケに集中砲火を浴びせた魔法を展開する。
「まずはご挨拶! 昨日と同じ負け方は許さないわよ!」
ティーガーマスケは前方に加速。ソフィアは、炎の槍を一斉に放った。
「障壁!」
横長の防御障壁を展開。ティーガーマスケに当たりそうなファイアランスだけを防ぎ、それ以外は無視する。
事実、セイジが前へ出たことで、左右端に展開したファイアランスが誘導しきれず、彼がとうに通過した後をむなしくすり抜ける。
肉薄。加速で距離を詰めるティーガーマスケ。だが――
「しゃらくさい!」
ソフィアもまた加速魔法で前に出た。魔術師が、戦士を相手に! 観客たちはもちろん、セイジも息を呑む。
「アースウォール!」
リングから岩の壁が勢いよく生える。ソフィアは壁を足場に浮き上がり、一方で突進していたティーガーマスケは壁に激突――しない!
瞬時に地を蹴り、ついで壁を蹴って、ソフィアを追撃する。空中では一度飛び上がれば、そこからの回避はまず不可能。ティーガーマスケは剣を振りかぶる。
「浮遊!」
ソフィアが浮遊魔法で、空中を足場にした。ティーガーマスケの斬撃を躱した!
「終わりよ! ライトニング!」
弾速が速く、しかも至近距離。避けられないはず――ソフィアは勝利を確信した。
だが、電撃弾は、ティーガーマスケに着弾の寸前に見えない壁に当たって弾かれた。
「防御魔法!?」
思わずソフィアは目を剥いた。ここまで勝ち上がる魔術師なら、さほど珍しいものではない。だが、ソフィアはセイジが防御魔法を使っていた、という事実に驚かされたのだ。
空中から落下しながら、ティーガーマスケは左手で魔法カードを投げた。
アイスブラストが具現化。ソフィアは浮遊魔法で後退しつつ、防御魔法でそれを弾く。
着地。ティーガーマスケは呪文を詠唱しながら、またも魔法カードを使い、三発の小型アイスブラストを放った。
ソフィアは鼻で笑う。
「そんな小さな魔法で、勝てると思っているの?」
魔術師である自分にこんなものが通用すると思っているのか? だとしたら、舐められたものだとソフィアは思った。
こんなもの、防御魔法で弾いてやる。堂々と、六色の魔術師は正面から受けて、その力の差を見せつけてやるのだ。
だがその時、ソフィアの脳裏に危険信号が点った。
刹那的な警告だった。――何故、セイジはアイスブラストを選択した? 最速ならライトニングでもよかったはず。事実、ソフィアは相手の魔法が飛んでくるというわずかな間でも、『何故?』と考える余裕があった。
「ちっ!」
それは本能だったのかもしれない。防御の障壁があるにもかかわらず、ソフィアは回避を選んだ。
結果、それが彼女を助けた。
展開したはずの障壁を氷弾が抜けてきたのだ。避けなければやられていた。
ソフィアはカッとなる。
障壁を抜けてきた? いや、魔法カードには、ソフィアがやるような相手の防御の裏から魔法を放つという芸当はできない。カードを使っている限り、防御の魔法は必ず発動する。
では何故、発動しなかったのか? こちらの障壁を打ち消したのだ。
先ほど、これ見よがしに放ったアイスブラストの合間に唱えていたのは、防御魔法を消すアンチマジックに違いない。わざと見える魔法で注意を引きつつ、えげつないことをしてくれたものだ。
「素直じゃないわ、あなたは!」
回避の隙を見逃さず、ティーガーマスケが追撃してきていた。回避を予想していての行動なら、その洞察力には恐れ入る。
「障壁を再度展開、からの拡大!」
魔法をひとつしか展開する余裕がないなら、防御と攻撃を兼ねればいい。防御魔法を展開しつつ、その壁を押し出すことにより、肉薄した相手にぶつける。
ティーガーマスケが、見えない壁にぶつかり、ひるんだ。さすがにこれは想定外だったようだ。
「炎!」
ソフィアは、火の玉を具現化させる。
――さっき、あなたは氷の塊を見せつけたから、そのお返しよ!
生き物は炎を恐れる。それは深層深く根付いている反応。誰だって、目の前に火が現れれば驚くもの。
障壁に当たって、体勢が崩れたところに火の玉でトドメを刺す。
ティーガーマスケが立て直した。だがもう遅い!
しかしファイアボールは、ティーガーマスケの剣によって叩き落とされた。2発、3発と、至近距離の攻防。虎マスクの戦士は全部、撃ち落としてしまった。
ここでようやく自分のミスを、ソフィアは自覚した。
見せつけるなんて言わずに、攻撃速度の速い電撃でも使っていれば倒せていたかもしれない。
目の前にあった勝機を逃した。だがまだ勝負はこれからだ。
近くで剣を振り回されては不利と、距離を取るソフィア。しかしティーガーマスケはまたも肉薄してきた!
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