第326話、海底洞窟
オーシャン・サファイア号を降りて、ソウヤは洞窟内に足を踏み入れた。
「踏める土があると安心するな」
ソウヤの発言に、イリクも頷いた。
「まったくですな」
「この先に、アクアドラゴンがいるの?」
ソフィアがクラウドドラゴンを見た。灰色髪の美女姿のクラウドドラゴンはコクリと頷いた。
「何故か返事を寄越さないんだけど、いるのは間違いない」
「じゃ、先導してくれ」
ソウヤが言うと、クラウドドラゴンが歩き出す。ついていこうとしたソウヤだが、ジンに肩を叩かれた。
「潜水艇を、アイテムボックスに」
「あ、あぁ」
ジンも同行するなら、船を無人で残しておくことになる。こんな場所で何かが潜水艇を襲うとかないとは思うが、何かあってからでは遅い。
ということで、オーシャン・サファイア号をアイテムボックスに収納したら、洞窟を歩いて移動する。
「正直、ここまで来ると、何事もないんじゃないかって思える」
「そうだな。魔族の連中も、こんな海底の洞窟にまで現れるなんてことは――いや、あるか」
サハギンという半魚人は魔族の一員であり、深海にコロニーを作っているなんて伝説もある。
「何だか嫌な予感がしてきた」
さっきから色々フラグを踏んでいる気がしないでもない。
「フォルス、あんまり離れるなよ?」
「ウン」
今のところ、特に勝手な行動をすることなく、ついてくるフォルス。好奇心を刺激するものが見当たらないせいかもしれないが。
しばらく進むと、ようやく目的地に到着した。
明らかに人の手が加えられたと思われる遺跡のような建造物があって、祭壇のような台の上に、青い鱗を持つ巨大なドラゴンが横たわっていた。
ソフィアが口を開いた。
「……まさか、死んでる?」
「生きてる」
クラウドドラゴンは、つかつかと祭壇へと歩いている。
「眠っているようね」
「寝てる?」
ソウヤは呆れた。
「なんだ、ただ寝てるだけかよ。……心配して損した」
海底の大冒険の結果は、ただアクアドラゴンが熟睡しているだけでした、って結末か。
水天の宝玉を目覚ましに返事してくれれば、潜水艇に乗って海底探検をすることもなかった。
クラウドドラゴンに続き、アクアドラゴンの祭壇まで移動する。
かつて出会ったアースドラゴンにも劣らぬ巨大なる竜である。
――そういえば、オレ、クラウドドラゴンのドラゴン姿、見たことねえな。
いつも人化している姿しか見ていない。
『――久しいな、クラウドドラゴン』
突然、重々しい声がした。ソウヤは思わず身構える。全員が青きドラゴンへと視線を向ける。
ここで知らない声を発する対象といえば、アクアドラゴンしかいないのだ。
「おはよう、アクアドラゴン」
淡々とクラウドドラゴンは返事した。
『我がテリトリーに何しにきた……というより先に問う。どうやってここまできた?』
「潜って」
『風を司るお前が、海底に潜って、だと? ……何かあったのか?』
アクアドラゴンは問うた。近くにソウヤたちがいるのだが、まったく気にした様子はない。完全にスルーされている状態である。
「アナタに会いにきた」
『私に? わざわざ?』
「だって、返事しなかったもの」
クラウドドラゴンは水天の宝玉を見せた。
「返事してくれれば、来なかった」
『それでわざわざ様子を見に来たと? お主、そんな奴だったか?』
「ワタシは別にどうでもよかったんだけど」
クラウドドラゴンは、ソウヤやジンを見た。
「最近、魔族がドラゴン族に喧嘩を売ってまわっていると聞いた」
『魔族が?』
アクアドラゴンの声のトーンが低くなった。
「そう、複数のドラゴンが被害に合っている。そんな状況だから、交信に返事しないアナタに何かあったのでは、と思った」
『そうだったのか……』
アクアドラゴンは目を閉じた。
『すまない。故あって身動きができないのだ』
何故、とソウヤは思った。だが、先ほどからアクアドラゴンは、クラウドドラゴンにしか関心を示していないので、黙って見守る。
「身動きが?」
クラウドドラゴンが聞いてくれた。
『恥ずかしい話、私はここから出られない』
「……」
『……』
「……何故?」
――クラウドドラゴンさん、もう少しテンポよくお願いします。
『……海に出るのが怖いのだ』
アクアドラゴンが言った。
――はい?
海が怖い? 水を司るアクアドラゴンの言葉とは思えない。ソウヤはジンと顔を見合わせる。
『というか、クラウドドラゴンよ。お主、泳いできたというが……外はどうなっているんだ? ヤツらはどうした?』
「奴らとは?」
首を傾げるクラウドドラゴン。アクアドラゴンはギロリと睨んだ。
『クラーケンだ。あいつら、このまわりをウロウロしていただろう? よくここへ近づけたな?』
クラーケン――超巨大なタコに似た海の化け物。大型帆船を超える大きさを誇り、海へと引きずり込むとして恐れられている。
そういえば、来る途中、巨大な渦巻きを見たが、あれもクラーケンの仕業とか言われている。
だがこの孤島の周りには、クラーケンはいなかったような……。
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