第322話、南海の孤島へ
アクアドラゴンの安否を確認するために、海の底へ行く――その人選を行っていたところ、影竜の子フォルスが行きたいと駄々をこねた。
断るソウヤだが、だんだんフォルスが気の毒に思えてきた。見かねたジンが口を開いた。
「ソウヤ、彼を連れていってもいいだろう」
「いいのか?」
「子供の好奇心は大事にしないとな。どうしても危なければ、アイテムボックスに収納すればいい」
実にシンプルかつ、もっともな意見だった。
「それに、フォルスはドラゴンだ。魔力に関していえば、子供といえど豊富かつタフだ。予備要員はいると助かる」
ジンがそう言うのなら、フォルスという人選もあながち間違っていないわけだ。ミストが気乗りしないと辞退していたのも大きい。
――しかし、さっきから爺さんは、魔力、魔力って言っているが、そんなにその潜水艇って魔力を使うんだろうか……?
ともあれ、ソウヤはフォルスを見やる。真剣な目で見返すフォルス。
――負けた。
「わかった。でも、こちらの言うことには従うこと。勝手はしない」
「かってはしない!」
フォルスは胸に手を当てて答えた。
「ひとつの失敗が、皆を危険にさらすかもしれない。いいな?」
「わかったー」
――本当にわかってる?
ソウヤは思ったが、あまりにしつこいと子供の心を傷つけてしまう。
「悪いことをしたら、すぐにアイテムボックスに引っ込めるからな?」
「うん」
というわけで、話はまとまった。
ソウヤ、ジン、イリク、ソフィア、クラウドドラゴンに、フォルスで、定員が埋まった。ライヤーが乗りたがってメンバーから漏れたが、レーラやダルも行きたがっていた。
ただ、二人は、フォルスに快く席を譲った。
『別に潜水艇に乗るのが今回が最初で最後になるわけでもないですし』
二人は大人だった。
ただ、非常時に備えて、アイテムボックス内で待機してもらうことになった。潜水艇内で何かあった時、とっさに外には出られないが、アイテムボックスハウスのほうへ退避はできる。
そこで回復要員がいるのは、心強い。
・ ・ ・
ゴールデンウィング号は空を飛ぶ。世界の果て目指す飛空艇の眼下に広がるは、どこまでも続く海。
雲が多く、天気がよいとはお世辞にも言えない。海も心なしか黒く見える。
目的地の海竜の宮の近くにある孤島――別名、海竜島への道中、いくつもの巨大渦巻きを見た。
ゴールデンウィング号の甲板から、それを見下ろすソウヤたち。
「海って怖いですね……」
そう表したのはリアハだった。一緒にいたソフィアも頷く。
「あれに飲み込まれたらどうなるのかしら?」
「飲み込まれたら無事では済まないんじゃないでしょうか」
お姫様は、どこか青ざめていた。
「大きさが大きさですから、船で行ってたら巻き込まれてしまうかも……」
「ちょっと、リアハ。大丈夫!?」
ソフィアは、友人の顔が強張っているのに気づいた。そのリアハは、引きつった笑みを浮かべる。
「何かわからないですが、怖くなってきました。口の中に何かを押し込まれたような圧迫感を感じてしまって……」
「うん、船室に戻りましょ、ね?」
ソフィアはリアハの背中を押した。甲板から去っていく二人を見送るソウヤとミスト、そしてレーラ。
「スケールに圧倒されちまったかな?」
あまりに大きいものを見ると恐怖を感じてしまうというやつ。ソウヤが言えば、ミストが意地の悪い顔になった。
「教えてあげなさいよ。あのでっかい渦巻きの下には、クラーケンがいるって」
「そうなんですか?」
レーラが問うた。ミストは「知らないの?」と手すりにもたれた。
「バカでかいタコの化け物が海の底にいて、そこから海中をかき回しているのよ。たぶん、あそこに魚の群れでもいたんじゃないかしら」
「つまり、お食事中ですか」
「リアハがいなくてよかったな。聞いてたら、さぞ気分が悪くなっていただろうよ」
ソウヤは皮肉った。
「つくづく飛空艇で来てよかった」
海上の船で移動していたら、襲われていたかもしれない。
「ここじゃないにしろ、海に潜ることになるんだよなぁ。化け物がうようよいるんだろうか……」
「海の生き物は、とかく巨大なものが多いわ」
ミストは言った。
「クラーケンもそうだけど、獰猛な巨大生物も少なくないから、まあ精々気をつけて」
「自分は行かないからって、言ってくれるよな」
ひょっとして、ミストが辞退したのは、そういう海の巨大生物との遭遇を嫌がったからかもしれない。
――何だか、潜水艇に乗るのが貧乏くじに思えてきた。
・ ・ ・
目的の孤島に到着した。ゴールデンウィング号は空中に固定。島へは浮遊ボートを使って降りる。
「見たところ、普通の島だな」
浜辺の奥は鬱蒼と生い茂る森。島自体もさほど大きくなく、海岸に沿って歩けば一時間くらいで一周できそうだった。
「ま、今回は島の探索じゃなくて、海に潜るんだけど」
「ソウヤ」
「おう!」
アイテムボックスに収納していた潜水艇を取り出す。
水しぶきが上がり、クレイマン式魔法潜水艇『オーシャン・サファイア』号が南海に現れた。
「クラウドドラゴン、相変わらず、アクアドラゴンと交信はできないのか?」
「ん……。応答なし」
クラウドドラゴンは首を横に振った。
探索不可避。ソウヤは、メンバーたちに振り返った。
「じゃあ仕方ない。アクアドラゴンを探しに潜ろう」
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