第300話、もう働かなくてもいいのではないか、という話
「よく、戻ってくれた……レーラ。我が娘よ」
「お父様、またお会いできて、うれしく思います」
レーラと、グレースランド国王の再会。グロース・ディスディナ城の謁見の間で、ソウヤはリアハと、親子の対面の場に居合わせた。
父王の目に涙が浮かび、レーラもまた十年ぶりの父の姿に感涙した。
――よかったな、本当。
ようやく親子を会わせることができた。必ずレーラを助けると国王と約束したそれを果たすことができてよかった。
「勇者ソウヤ殿。君には苦労をかけた。このお礼はさせてもらう。君と、銀の翼商会には褒美をとらせる」
「ありがたき幸せにございます」
ソウヤは頭を下げた。正直に言えば、仲間を助けたいと思っただけであり、とくに何かが欲しいというわけではない。だが掛かった諸経費と、尽力してくれた仲間たちへの報酬は弾んでいただければそれでよかった。
その後、リアハの勧めもあって、レーラは家族と過ごすことに。ソウヤたちとレーラはしばしのお別れ。王都を去る時に挨拶をしたら、当分会えなくなるだろう。
もっとも今生の別れというわけではないし、ちょくちょく会いにいければ、と思っている。
『で、リアハよ。お前も両親とお姉ちゃんと十年ぶんの親睦深めてこい』
という感じで、リアハも城に戻らせる。これからも銀の翼商会に同行するのなら、きちんと親御さんに話をつけるべきだ。
やたら名残惜しそうなリアハとも別れて、ゴールデンウイング号に戻るソウヤ。
たった三日くらいの離れるだけなのに大げさだなぁ、とリアハの顔を思い起こしながら思うのだ。
しかし、両親にも都合があるだろうし、話によってはリアハともここでお別れの可能性もあった。
その時はその時である。
・ ・ ・
「それで、今後の方針は?」
休憩所でお茶をしているジンが聞いてきた。浮遊島に残ると思っていたのだが、この元天空の王様も、銀の翼商会にいる。
『地上はまだ、ごたついているからね、しばらく様子を見たい』
そう言って、この老魔術師は同行したのだ。
「魔王軍の残党の動きも気になるよな」
「例のグレースランド王国での一件以来、大きな動きは見せていない」
「だがあれで全滅したわけでもない」
ソウヤが唸れば、ジンも同意した。
「何か企んでいるだろうし、きちんとケリをつけておきたいね」
「連中がどこにいるかわからないしなぁ……」
エンネア王国をはじめ、魔王軍の残党にちょっかいを出された国は、捜索を行っている。転送ボックスからくるカマルからの手紙でも、成果はないようだった。
「いま浮遊島では機能の回復と、魔王軍の残党の調査を行っている」
ジンは顎髭を撫でながら言った。
「何かしら成果が欲しいところではある」
「そうだな」
「で、特に手掛かりがない現状、銀の翼商会はどうする? レーラ嬢を救うという当面の目的は果たされた。いまは割と自由に動けるのではないかな?」
「取引先巡りをしておこう」
ここ最近、連絡はとっているが直接顔を合わせていない。たまにはお互い顔を合わせて情報交換をするのがいいだろう。余裕があるうちに、やらないでいつやるというのか。
「そういえば、タルボットの親父さんが会いたがっているって連絡がきたな」
転送ボックス経由のタルボットの手紙でそう書いてあった。
「何か依頼だろうかな……?」
「かもしれない」
貿易商をやっているという話だった。何か面白い品か、あるいは輸送の依頼かもしれない。実の息子のタルボットにも内容を言わないあたり、仕事絡みの可能性が高い。
「しかし、君はすでに充分な金も得たのに、まだ行商をやるんだな」
ジンは言うのだ。
「一生遊んで暮らせる金はあるはずだ」
「まあ、余裕はあるな、確かに。……あんたがくれたからな。さすが王様」
ソウヤは皮肉った。生きていくには充分な財産を得た。もっとも、これは銀の翼商会としてではなく、白銀の翼、つまり冒険者方面で獲得したものである。
「もちろん、オレは世界一の商人になる、とかそんな目標があったわけじゃない」
「そう、アイテムボックス内に収容していた瀕死の友を全員救う、という側面があった。だがそれは、レーラ嬢の件も含めて、ほぼ解決した」
「まだひとり、昏睡のまま目覚めていないけどな」
ソウヤは苦笑する。ジンは言った。
「だが、すでに命は救った。意識を取り戻すのは時間の問題であり、こちらからできることはない」
「そうだな。……でもまあ、行商の肩書きはしばらく残していいと思う」
「ほう」
「オレは、飛空艇で世界を見て回りたいって夢がある」
「……それはライヤーの言いそうなセリフだ」
「そう、オレとあいつの共通点でもある」
ソウヤはお茶を飲む。
「ガムシャラに働く必要はないけど、行商は旅をするには便利だと思う」
「確かに」
「やることがあるなら、怠けずに済むし」
いちおう行商を続けていれば、何もしないとか、堕落することはないだろう。
「まあ、魔族が何か企んでいる以上、しばらくは『することがない』ということはないだろうけどな」
その時だった。休憩所のドアがノックされた。見ればミストが立っていた。
「何かあったかい?」
「別に。……これからどうするって話が聞こえたものだから」
「お、何かやることがあるのか?」
やってくるミストに、ソウヤは聞いた。
「ソフィアの件よ」
黒髪の美少女は艶っぽく笑った。
「あの娘が銀の翼商会に入った動機を覚えてる?」
「……魔術師になりたい、だったか?」
魔法が使えないから冷遇されていた貴族の娘、それがソフィアだ。魔力と引き換えに、魔法を使えるようにトレーニングを受けながら、銀の翼商会に所属している。
「ジン、彼女はもう一人前の魔術師よね?」
「多少、経験が浅いところはあるが、宮廷魔術師レベルの実力はあるだろう」
「あなたと比べたら、誰だって経験が浅いでしょうよ」
ミストが皮肉を言った。
「それはともかく、ソフィアはもう一人前、そうよね?」
だったら――とミストは視線を向けた。
「そろそろ、あの娘を冷遇した家族に、一発お返しするべきだとワタシは思うのよ」
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