第268話、エルフの治癒魔術師
飛空艇『ゴールデンウィング二世号』は行く。
世界の果ては北東にあるというウィスペル島を目指して。
操舵輪をライヤーが握り、エンジンの様子をジンとフィーアが交互に見ている。
「試験では、エンジンも特に問題はなかった」
そう言う老魔術師は、エンジンを長時間動かしてみて、異常が出ないか見るといって機関部にいた。
ソウヤは、聖女レーラの魔力欠乏の回復の糸口である大精霊の泉へ行くため、まずは邪魔な嵐を取り除く方法を求めて移動する旨を、カマルに手紙で知らせた。
それと、タルボットに返事を書いた。彼の父親がこちらに会いたいという話だったが、『ちょっとウィスペル島に行く用事ができたので、無事だったら後日お伺いします』と伝えてもらうことにした。何か有益な品物の情報があれば、ついでに探してみると書き添えて。
果たして、ウィスペル島に何が待ち構えているのか。行ったものが帰ってこなかった理由は? クラウドドラゴンには会えるのか? そして協力を取り付けられるか?
さて、道中、アイテムボックス内で意識不明のままだった二人のうち、ひとりが目覚めた。
エルフの治療魔術師ダル。金髪碧眼に美形と、典型的なエルフだ。弓が得意な種族に反して、彼は魔術師で弓は使わない。
排他的で有名なエルフであるが、ダルは好奇心が旺盛であり、仲がよろしくないドワーフとも仲良くなるという希有な存在だった。
当然、人間に対しても友好的であり、魔王討伐の旅でも、あまり協力的とはいえない同族との仲を取り持つ交渉役として活躍した。
「いやはや、十年ですか」
おはようの挨拶の後、ソウヤはいつもの如く、魔王は討伐され、その後のあらましを説明したが、ダルは、特に驚いた様子もなく受け入れた。
「それはそれは」
「……大丈夫か?」
「ええ、もちろん。たかが十年、どうってことはないですよ。私は両親にもう二十年も会っていないですから」
長寿のエルフらしいコメントである。見た目、落ち着いた二十代あたりの顔をしているが、百歳はとうに超えているという。それでも若造だ、というから、その長寿っぷりは恐ろしい。
現在、ウィスペル島に向かっていることを告げれば、ダルは頷いた。
「それは興味深い。私も行きますよ。楽しそうだ」
そうとなれば、仲間たちに会わせよう。ソウヤは、ダルを連れて飛空艇内を移動した。
「船が新しくなってますね」
「ああ、拾いものなんだけどね。修理して使ってる。……ここは機関部な」
「おお、エンジンも新型ですね。これは見たことがない形だ」
魔力式ジェットエンジン――そう説明すれば、ダルは顔をほころばせた。
「こういうところですよね! 時間の流れを感じるのは」
「……楽しそうだな」
「楽しい! 変化……私はそれを見るのが好きなんです!」
随分と快活なエルフである。
エンジンを眺めている間に、様子を見ていたジンとダルを会わせる。
「よろしく、エルフの若者」
「よろしくお願いいたします!」
――エルフの若者って、爺さん、あんた歳いくつだよ。
思わず心の中で突っ込みを入れるソウヤ。見た目は若いが、ダルのほうが年上だろうと思う。――……だよな?
ところ変わって、次に会ったのは――
「やあ、カーシュ。元気そうだ。君も変わらないね」
ダルは手を振った。魔王討伐パーティーで一緒だった戦友との再会である。
「生還おめでとう。後で一杯やろう!」
「あ、あぁ、後で」
面食らった顔になるカーシュ。生還おめでとう、はダルも同じなのだが、それをまったく感じさせない振る舞いだった。
次に、かつての仲間繋がりで、最近目覚めたばかりのメリンダとコレル。十年のブランクに気落ちしている二人である。
「ソウヤ、悪いけど、この二人は後回しにしよう」
ダルは、声をかける前に二人を一目見てそう言った。
「ちょっと軽く挨拶って雰囲気じゃないんだよね。これはじっくり話を聞いてあげないといけないやつだ」
ダルは、とても真面目な表情だった。治療魔術師として、メンタルケアにも長けている彼は、診断の必要ありと認めたのだ。
とりあえず、他の面々の紹介を優先させるが、ソウヤは、ダルの復帰を歓迎した。
「うちはメンタルを診れる奴がいなかったからな。助かるよ」
「いえいえ。勇者時代もそうでしたが、ソウヤ君は何気に抱えすぎるところがある。愚痴は聞くので、私のところに来てくださいね」
そんな頼もしいエルフの魔術師が次に会ったのは、聖女レーラの妹であるリアハ。
「グレースランドの姫君、お初にお目にかかります。クルの森、ゼルファーのダルと申します」
「これはご丁寧に。リアハ・グレースランドです」
そこから、レーラのことを絡めて少々のお話。
ダルが瀕死になった時には、すでにレーラはアイテムボックスに収容されていた。だが、その彼女が一度は復帰し、同じくアイテムボックスに収容されたダルたちを治癒してくれたことに深く感謝する――などなど。
「呪いを引き受け、またも治療が必要になったのはとても残念です。ですが、私はこの命を救われた身。レーラ様を助け出すその日までお力になることを誓います」
「はい、共に、頑張っていきましょう」
終始和やかな雰囲気で、会話は終了。治癒魔術師であるダルには、レーラの症状について伝えたが、魔力欠乏の治療については経験もなく、わからないとのことだった。
さて、ソウヤは、ソフィアやセイジに引き合わせた。
「やだ、イケメン」
ソフィアがそんなことを言えば、聞いていたセイジは難しい顔をした。
「そういうのが好みなんだ……」
「は? わたしはただイケメンだって言っただけでしょ?」
「僕も、好みなのかって聞いただけだけど? ムキになってる?」
――なんだ、痴話喧嘩か?
ソウヤとダルが見守る中、ソフィアとセイジの睨み合いは続く。
「はっ、冗談。わたしの好みじゃないわ。ああいう笑みで近づいてくる奴は軽薄って相場が決まってるのよ」
――何気にヒデェ……。
ソウヤが隣のダルを見れば。
「初対面で軽薄って言われるのはさすがに傷つきますね……」
だが、すっと片目を閉じて、お仕事モードの顔つきになる。
「きっと彼女は、外見はいい美形男性に、苦手意識か、嫌悪の感情があるのでしょう。家族か、それに近い、よく顔を会わせる人物などに」
「美形って……どうかな?」
仲間にいるガルもイケメンだが、彼を嫌っている様子はなかった。
「そうなると、より条件は絞られましたね。金髪で長身の男性、でしょう」
などと指摘したダルは、仲間たちとひと通り顔を会わせて、銀の翼商会の一員に加わった。
なお、ミストと影竜には、さすがの彼も驚いていた。
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