第266話、目的の泉の場所がわかったけれど……


 フェアリーの姿をした大精霊は、ソウヤに言った。


『いまの私は、大精霊であっても大精霊の力は持っていないの。その私がいた水を汲んできたんでしょうけど、たぶん、ちょっと気分がよくなる程度で、病気とかは治らないよ』

「……あなたは大精霊?」

『うん』


 コクリと頷く大精霊。


「でも大精霊の力を持っていないとは?」

『話せば長くなるけどー』


 大精霊はふよふよと、ソウヤの周りを飛んだ。


『私の本体が、いま身動きとれなくなっちゃってね。戻ろうと思ったんだけど、そこまでたどり着けないっていうのかな……。うん、私もいま困っている』


 聞けば、大精霊は泉を転々としているが、その移動の前に自分の分身ともいうべき体を作って、下見に行かせるのだという。


『目的の泉で、悪い奴がいたり、何か面倒な状況になっていると困るからね……』


 大精霊自体に、何か先読みの力だったり、ドラゴンのような千里眼や魔力眼があるわけではないらしい。


『そうやって下見に出ている最中に、本体のいる島が、異常な嵐に囲まれてしまってね。魔力を遮断されて、アストラル体でも通れなくなっちゃって、帰れなくなってしまったのよ』

「嵐……」


 ――ひょっとして、あの不自然な嵐に囲まれていた島か?


 勘で指したあの島だったのなら、ソウヤの勘は的中していたことになる。


「大精霊様の泉は、その嵐に囲まれた島で間違いないですね?」

『あの島に入ることも出ることもできないからね』


 大精霊は頷いた。


「なら、その嵐をどうにかすれば、解決するわけですね?」

『うん、そうなる。……何かいい方法が?』

「さて、それは考えないとわかりません」


 正直に答えると、大精霊はガクリと頭を垂れた。期待されていたようだ。


 嵐に囲まれた島ということだが、一応、ソウヤの思っている島と違わないか確認をしようと思った。あと、皆と相談が必要だろう。


「大精霊様、皆にあなたのことを紹介しても?」


 妖精とか精霊は、あまり活発に人前に現れることはない。悪い人間が金目的に誘拐するなどの事件が多発したため、警戒されているためだ。


 だから大抵、人との交流は好まないのである。


『……私を害する気配を感じたら、すぐに引っ込むからね』


 ダメというわけではないらしい。しかしよくよく考えると――


「オレは大丈夫なんですか? こうして会ってますけど」

『キミは清らかな空気をまとっているからね。いいんだよ』


 あっさりと言い放つ大精霊。特に裏はなさそうで、そのままの意味で受け取ってもよさそうだと、ソウヤは思った。


 清らかな空気と言われたが、そんな空気清浄機のような機能はもちろんない。元勇者というのが関係しているのかもしれない。


 ――まあ、いいや。


「それでは、皆と話し合ってみます。オレとしても仲間を助けたいってのがあるので、大精霊様が帰れるように考えます」



  ・  ・  ・



「大精霊様!?」


 ソフィアが目を丸くした。


「まさか本物をこの目で見る日がくるなんて!」

『本体じゃない』


 その大精霊は、浮遊しながら手をヒラヒラと振った。


 大精霊の泉が発覚したので、そこへ行くための会議を開いたソウヤ。主な面々を集め、大精霊を紹介。


 そこで改めて、魔力欠乏から救いたいのが、聖女であるレーラであることを伝えた。グレースランド王国を襲った呪いを取り除いた結果、力を使いすぎて死にかけている彼女を救うため、精霊の泉を巡っていたなど、こちらの事情も話した。


『そうか、聖女かー』


 大精霊はうーんと腕を組んだ。


『それは何とかして助けたいものだ。聖女への祝福は私も参加したゆえ、あの娘が死の淵にあるのは忍びない』

「大精霊様は、姉を知っているのですか?」


 リアハが問えば、大精霊は首肯した。


『とても清い魂の持ち主だった。そばにいて、とても心が休まった。……キミも、姉ほどではないが、清いよ』

「あ、はい……どうも」


 リアハは微妙な表情になる。大精霊は褒めているつもりかもしれないが、言い方がこれまた微妙だった。


 姉ほどではない、というのは、取り方によっては、姉より汚れているとも解釈できるわけで。


 もちろん、大精霊に他意はないだろう。


 ――君も充分、清らかだよ。


 ソウヤは思ったが、口には出さなかった。下手な慰めに聞こえて、たぶんリアハのへこみを加速させると思ったからだ。


 ライヤーが話を変えた。


「で、おれたちの次の目的地が決まったわけだが、その嵐ってのはすごいのか?」


 以前、ミストと偵察に行った島だったというが、大精霊の証言で確定になった。飛空艇が完成した今、それで乗り込むことができるが、問題は嵐である。


「正直、あれに飛び込むなんて自殺行為よ」


 実際に、魔力眼込みでその嵐を見ているミストが言った。


「飛空艇で飛び込んだら、たぶん無茶苦茶な風を叩きつけられて、バラバラにされてしまうわ」


 そもそも、ドラゴンであるミストが諦めたのだ。船などへし折られてしまうだろう。


「でも、ミスト師匠って霧になれるんですよね?」


 ソフィアが指摘した。


「霧になって突っ切るのは……」

「魔力眼が通れなかった時点で、霧もクソもないわよ」


 ミストは首を横に振った。


「そもそも、それで通れるなら、大精霊が帰れないなんてこともないでしょう」

『あの嵐は魔力はおろか、幽霊だって通さないよ』


 その大精霊は机の上に座った。それまで聞いていたジンが口を開いた。


「そもそも、その特殊な嵐は、何故発生したのかね?」


 全員の視線が老魔術師に向いた。


「聞けば聞くほど、自然発生したものとは思えない。いったい何なのだ?」

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