第265話、実はもう手に入れていた?
操縦できるゴーレムに試し乗りしていたソウヤの前に現れたのは、重戦士のようなマッシブな黒いゴーレム。それを操縦していたのは、フィーアだった。
ソウヤは、さっそくジンに説明を求めた。
「あのゴーレムは?」
「フィーアの希望だよ」
老魔術師は、機械人形――メイド服をまとうフィーアを見た。
「アイアン1を作った後、彼女からパワードスーツ型のアーマーを所望されてね。どうも彼女、そういう機械兵器とセットで運用するオプションがあったようなのだ」
古代文明時代の機械人形というフィーアである。かつての自分の仕様に合わせた装備を欲したというわけらしい。
「実を言うと、ゴーレムコアと操縦系を繋げたのは、彼女の功績が大きい」
試乗したゴーレムも、フィーア専用機とは別に、銀の翼商会で使えたら、と作ったものらしい。
「作業用の重機としても、戦闘用にも使える。まあ、銀の翼商会は、色々面倒な敵とぶつかることも多い。何かの役に立つこともあるだろう」
「だな」
ソウヤはうなずいた。
「しかしそうなると、何か武器を積んだり、空を飛ばしたりとか、やってみたいなぁ」
「アニメや漫画の見過ぎじゃないかね?」
ジンは苦笑した。
「ま、私も嫌いではないがね」
老魔術師の視線が、ゴーレムのバックパックに取りつくフォルスへと向く。
「あれは何をやってるのかね?」
「自分も乗りたいんじゃないか?」
ソウヤはそう想像したが、ベビーとはいえドラゴンであるフォルスの体では操縦席に入らない。
『ソウヤ。これ、動かないのー』
「操縦してないからな」
『ソウジュウー?』
小首をかしげるフォルス。
『ソウヤ、動かしてよ。ボク、上に乗りたい』
「あー……」
何となく理解した。人間観察の時間で、フォルスは言っていた。
「爺さん、上にドラゴンベビーが乗っても、ゴーレムは壊れない? 膝とか関節とか」
「壊すつもりで暴れなければ、大丈夫だ。ゴーレムは、もともと耐久力が高いからね……。何をするつもりだ?」
「肩車をして欲しいってさ」
ソウヤは、再度ゴーレムの操縦席に乗り込む。よじよじと、上に乗る、というか体全体でしがみつくような格好ながら、フォルスはゴーレムに乗った。
そこへソウヤはゴーレムを進ませれば、フォルスの笑い声が聞こえた。おんぶとか肩車をやってほしかったドラゴンベビーは、それが叶って嬉しそうだった。
・ ・ ・
休養と補充で過ごしたクリュエルの町。だがそろそろ、次の精霊の泉を目指すべく、移動したいとソウヤは考えていた。
問題は、次はどこの精霊の泉へ行くのか、である。
一度行ったグレースランドへ行く手もあるし、まったく別の国にある泉を目指す手もある。
飛空艇があるから、以前のようにミストたちドラゴンに引っ張ってもらわなくても航行できる。
あれこれ考えつつ、アイテムボックスのアイテム欄のチェックをする。
情報収集をしているニェーボ、スナーブから提示の報告が転送ボックスに届いていた。魔族の動きや地方の情勢などを探っている彼らからの報告は、これといって大きな情報はなし。
カマルからも同様。先日のゴブリン軍団や、クリュエルのダンジョンの巨人族騒動の報告もしたから、それに関する確認事項が少々。
王族からは、こちらの旅に対する報告とお菓子の催促。……要するに冒険譚が聞きたいというやつである。お菓子については、毎度のことなので特に言うことはない。
バッサンの町からは、浮遊バイクの製造状況など。
タルボットの醤油蔵と、実家の貿易商からのお話が少々。何やら一度、タルボットのお父さんが会いたがっているとのことだった。
――ふむふむ、どうしたものか。
貿易商相手なら、何か貴重な品を持参したほうがよいか。さて、何か売れるものはあるだろうか?
ソウヤはアイテムボックス内のリストを眺める。そして奇妙なものがあることに気づいた。
精霊の泉の水――それはいい。大精霊はいなかったが、行った証として、コップ二、三杯程度の水を回収している。
その精霊の泉の水の下に、『大精霊(小)』と名前がついていた。
――何だよ、大精霊、かっこ小かっこ閉じるって。
大きいのか小さいのか、というのは置いておくとして、大精霊がアイテムボックスの中に収容されている?
大精霊とは、ソウヤたちが探している精霊の泉の主で間違いないだろうか。
――しかし、小ってのが気になるんだよなぁ……。
何はともあれ具現化操作。生き物だって収容できるソウヤのアイテムボックスである。何かの手違いで、探し求めていた大精霊を実はいつの間にか確保していたかもしれない。
出てきたのは、背中に昆虫のような薄い羽根を持った小人だった。長い金色の髪の少女は薄い緑色の服をまとっている。
「フェアリー?」
精霊というより、妖精だとソウヤは思った。魔王を討伐する旅でも、未踏の地や、エルフや妖精などがいる森などで、見かけたことはあった。
『ふう、ようやく出られた』
頭の中で、女の声がした。最近、ドラゴンベビーとやりとりしている念話だろう。おかげで、ソウヤはさほど驚かなかった。
『やあ、人間クン。キミが私を泉から連れ出したんだね?』
「……うーん」
連れ出した、というのは、そうなのだろうか。お土産か何かの素材で使えるかも、という感覚で、泉の水を持ち帰っただけなのだが。
「そうなるのかな……」
ソウヤは腕を組み、小妖精にしか見えない大精霊を見る。
「大精霊を探してはいたが、まさか連れて帰るつもりはなかった」
正直なところを口にすれば、『そうでしょうとも』と大精霊は言った。
『でもキミは、精霊の泉にきた。何かお願いがあって来たんじゃないかな?』
「うん、あー、ええ……」
いちおう大精霊のようなので、どういう口調で応じればいいか迷った。大精霊ではあるので、目上の人という対応でいいだろうか。
「友人の魔力欠乏を治すために、大精霊のいる泉の水を少量いただこうと思っていまして。あー、でも大精霊がいたんだから、この水は、その素材として手に入れたことになるのかな」
大精霊のいる泉の水を入手するのが目的だった。ただの精霊の泉の水だと思って回収したら、それが何と大当たりになってしまったわけだ。
『あー、それ、たぶん効果ないよ』
大精霊は言った。ソウヤは目を丸くした。
「はい? たぶん、効果がないとは……?」
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