第240話、新型エンジンを見せるか否か


 ゴールデンウィング二世号のデッキ。ソウヤは、ジンとライヤーと合流した。簡単に状況説明をするソウヤ。


「――とりあえず、飛空艇をオレたちが持つ許可は得られた」

「そいつはよかった」


 安堵するライヤー。ジンは自身の顎髭を撫でた。


「それで、我々がどんな飛空艇を持っているのか、王陛下自ら視察にこられた、と」

「そういうことだ」

「ふむ……」


 ジンがライヤーを見れば、彼は肩をすくめた。


「まさか王様がここに来るとはな……」

「飛空艇の保有許可を得るにあたって、見学もあるかな、と思っていた」


 しかしジンは、こういう展開も予想していたようだ。


「一応、許可を得る以前に、こちらに視察に来た場合に備えて考えてはいたのだが……もう許可されたんだな」


 老魔術師は言った。ライヤーは口元を引きつらせた。


「許可をとる切り札として、試作中のジェットエンジンを見せる、ってやつな。だが許可をもらっちまってるなら、エンジンは秘密にしておいたほうがよくね?」


 新型エンジンを見せて、それを王国の飛空艇にも採用したい云々……。そこからエンジンを研究と称して取り上げられたら――


「いや、遅かれ早かれ、王国の耳に入る。むしろ王陛下が、ソウヤの友人であるとするなら、いま見せてしまうのがよかろう」


 ジンの言葉に、ソウヤは眉をひそめた。


「いいのか?」

「どうせ、いつかは魔力式ジェットエンジンは、他の飛空艇にも搭載されるようになる。技術を独占しようとするなら、強硬手段として取り上げられる可能性もあるが、そうでないなら見せて、以後の商売に結びつけるのが上策だろう」

「じゃあ、手順は、さっきの打ち合わせ通りに?」


 ライヤーが確認すれば、ジンは頷いた。ソウヤは口を開く。


「打ち合わせって? オレは聞いてないが」

「エンジンを試験し、安全が確認されたら王国に売る用意がある、という話だ」


 試験中である、というふうに話を持っていけば、いきなり徴用されることはないだろう、と老魔術師は言った。


 事実、このエンジンは、ドワーフが試作していた時に、痛ましい爆発事故を起こしている。


「銀の翼商会としては、せっかく世界初の魔力式ジェットエンジンがあるわけで、これを商売に利用しない手はないだろう。王国にまず話を通しておけば、他の誰かが手を出してきても、王国が守ってくれる」


 新型エンジンを手に入れられると聞けば、王国もその完成を見守り、状況によっては支援を引き出すことができるかもしれない。


「なるほどね。完成後にエンジンを値引きするから、金とか希少な素材をくれ、って言えるわけだ」


 ソウヤが言えば、ライヤーは意地の悪い顔になる。


「旦那も、結構抜け目ねえな」

「商人だからな、これでも」


 ソウヤも少々悪い顔になる。ジンは苦笑した。


「まったく性質の悪いことに、我らがソウヤは、王陛下の友人だからな。少々わがままを言っても通るというね。……おかげで、我々も安心してエンジンを見せられる」


 アルガンテ王とソウヤが友好関係になければ、絶対に魔力式ジェットエンジンを見せるべきではない、というのが、彼らの意見だった。


「すでに許可は得られたが、今後、飛空艇のエンジン絡みで商売できるかは、ソウヤ次第ということだ」

「旦那、頑張れよー。あんたにしかできねえからな、これは」

「任せろ。勇者の交渉術を使うまでもないとは思うが、アルガンテ王には売り込みをかけておこう」


 話は決まったので、外に戻ろう。フィーアにお菓子を用意するように言ったとはいえ、王様とお姫様を待たせているわけだから。



  ・  ・  ・



「よう、ソウヤ」


 船から戻ると、アルガンテ王とペルラ姫は、折りたたみの椅子に座り、お茶をしていた。フィーアがメイド服姿のせいか、王族の午後の紅茶じみた光景である。


「このクッキー、旨いな!」

「ソウヤ様、とても美味しいです!」


 小麦粉、砂糖、バター、卵、牛乳などで作るオーソドックスなバタークッキーではある。この世界にもクッキーはあるのだが、作り方が現代風ではないので、味気ない。故に、銀の翼商会のクッキーは、味わいが違う。


「このクッキーは毎日食べたいですわ!」


 ペルラ姫、絶賛。ふだん、商会内でおやつとして作っていたが、これを機会に商品として売るか――ソウヤは頷いた。


「お褒めにあずかり恐縮です。お土産として用意しておきます」


 と、お菓子が本題ではない。


「お待たせしました。船内をご案内いたします」

「うむ」


 さっそく、ゴールデンウィング二世号に、王族ご一行様を誘導する。エンジンを除いて、ほぼ清掃と修理が済んでいるので、見た目はピカピカである。


 フィーアがよく清掃をしているので、デッキも船内も清潔に保たれている。王族に見られても恥ずかしいところはない。


「よい船だ」


 アルガンテは、よく手入れの行き届いた船内にご満足のようだった。


 まずは武装が気になるらしく、搭載されている砲をまず見せた。電弾を放つ、電撃砲と呼ばれる古代文明時代の魔法砲が、この船のメイン武装である。


 エンネア王国の飛空艇には火薬式の大砲とこの電撃砲が積まれている。故に少々珍しくはあっても、貴重というほどではない。


 ――ただ、爺さん曰く、電撃砲としてはかなりの高火力らしいけど。


「砲の数は少ないな」


 アルガンテは少々肩透かしを食らったようだった。とかく男子というのは武装は、数と大きさを重視しがちだ。


「この船は軍船ではないからでしょうね」


 ソウヤは、そう言葉を濁した。古代文明時代の船の再利用だから、当時どういう目的でこの船が作られたのかわからなかった。


「――こちらが、現在、製作中のこの船のメインエンジンとなります」


 ジンとライヤーが見守る中、ソウヤは言った。


「魔力式ジェットエンジン……現在の飛空艇を超える、最新型高速エンジンです」

「なんだと!?」


 エンネア王国国王は目を見開いた。


「最新型、高速エンジン……だとっ……!?」


 最後の最後で、予想外の代物が出てきたは、王を大いに驚愕させた。

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