第90話、仲間に迎えるための準備

 ソフィアを銀の翼商会に加えた。


 とは言っても、魔法が苦手という彼女が、一人前に魔法が使えるまで、という扱いだ。なので、もしかしたら、短期間のお付き合いで終わるかもしれない。


 さて、銀の翼商会に入るということは、白銀の翼という冒険者パーティーにも加われることを意味する。


「冒険者?」

「もちろん、本人の意思次第だ」


 怪訝な顔になるソフィアに、ソウヤは告げた。冒険者はちょっと……という者に、強制するつもりはない。


「ただ、オレたちはダンジョンに行くこともあるからな。魔法訓練の一環で同行するようなら、冒険者に登録しておくのは悪い話じゃないと思う」


 もっとも、危険と隣り合わせだが。


 ミストが言った。


「あなたの求める魔術師とやらは、ダンジョンなどの荒場でも戦えるエリートなんでしょう? 危険は承知。実地も兼ねて、いい練習にはなると思うわ」


 などと教育担当が申している。獅子はわが子を突き落として、戻ってこれた子のみを鍛えるなんて言うが、『ダンジョンで』なんて言うとそういうのを連想してしまうソウヤだった。


「わかったわ。で、どこで登録すれば冒険者になれるの?」


 決意を秘めた目を向けるソフィア。物事を始める前は、やたらやる気が漲っていたりするものだ。これがどうか続きますように、と、ソウヤは心の中で祈った。


 ソフィアの冒険者登録のため、王都冒険者ギルドへ。


 ソウヤたちが行くと、フロアにいた冒険者たちがざわつく。ここ三カ月で、ヒュドラ退治の勇名がすっかり浸透しているのだ。


「あ、モニカさん、どうも」

「こんにちは、ソウヤさん」


 顔なじみの受付嬢に挨拶。


「登録用カウンターにいるなんて珍しいな」

「臨時のヘルプですよ。担当の子が風邪を引いたらしくて」

「そりゃお大事に」

「それで……今日はどのようなご用件でしょう?」

「モニカさん、ここ、何のカウンター?」

「あっ、いつもの癖でつい……すみません。そちらの方の冒険者登録でしょうか?」

「ご名答。よろしく頼む」


 受付嬢に、ソフィアを紹介。冒険者登録をして、登録料をソウヤが支払う。ソフィアが「いいの?」という顔をしたので、ソウヤは出世払いだと答えた。


 冒険者講習については、ソフィアはソウヤたち白銀の翼パーティー所属ということで、免除となった。試験クエストも同様だ。


 もっとも希望すれば、ギルドのほうでやってくれるが、時間を食うので、あまり利用されないらしい。ソウヤも、どうせこちらで教えるのだからと、講習や試験はパスさせてもらった。


 モニカから、ギルドが抱える未消化クエストをいくつか処理してもらえないか、と依頼された。仕事との兼ね合いから、特に時間制限がなく、できそうなものをいくつか受けておいた。


「ちなみに、だけど、街道に獣人が出たって話、聞いたことない?」


 受付嬢に、噂について確認する。見たところ、クエストには見当たらなかった。


「獣人、ですか?」


 心当たりがないと受付嬢は答えたが、「ちょっと調べてきます」と席を外す。ヒュドラ退治とその後の騒動の功績でAランク冒険者になっているソウヤである。冒険者ギルドも相応の対応になる。


「お待たせいたしました。残念ですが、王都近郊では、その手の話はありません」

「そうか……。うん、ありがとう」


 場所も別に王都に近いわけではないから、そういうものだろうとソウヤは納得した。


 ギルドでの用を済ませたソウヤたちは、次にプトーコス雑貨店へ向かう。ソフィアが首を傾げる。


「雑貨店?」

「うちは、プトーコスさんとこの雑貨も扱ってるからな」


 王都に立ち寄った時は、極力寄るようにしている。


「それと、お前さんの生活用品を買っておこう。これからしばらくは、うちで面倒みることになるからな」

「……そのお代は……?」


 上目遣いに聞いてくるソフィア。先ほどからソウヤがお金を出しまくっているので、さすがに遠慮というか、かなり下からの態度になる。


「うん、うちの仕事を手伝ってくれれば、それで相殺するから」


 ニッコリとソウヤは言い放った。タダでもいいが、それは彼女のためにならないと思う。


 そんなわけで、プトーコス雑貨店に到着。ソウヤは、プトーコス氏と港町バロール遠征の成果や、雑貨の売れ筋などの話をした。その間、ソフィアは自分用の皿やコップ、その他日用品を購入する。なお、一番高かったのは、彼女用のベッドだったりする。


 アイテムボックスに収納して、買い物終了。外に出た時、日が傾き、間もなく夜となる。


「今日はここまでだな」


 ということで、人のいない場所へ移動し、アイテムボックスハウスへと移動。今回、初めて、ソフィアを中に入れることになる。



  ・  ・  ・



「はっ!? 何でアイテムボックスの中に家があるのよ!?」


 ――まあ、そうなるよなぁ。


 百聞は一見にしかず、ということで、説明もそこそこに案内したら、予想どおり、ビックリするソフィア。


「ほら、案内してあげるから来なさい」


 ミストが、新たな弟子を家へと迎え入れる。ソウヤはセイジと顔を見合わせた。


「彼女に任せて大丈夫だと思うか?」

「大丈夫じゃないですかね」


 セイジはあいまいな返事をした。


「少なくとも、ついていっても僕はお役に立てないと思います」

「だな」


 部屋に購入した雑貨と家財道具並べておこう。家の中から、ソフィアの素っ頓狂の叫び声が何度か聞こえてきた。


『お風呂! わたしの家と同じくらい広いじゃない!』


 ――まあ、貴族宅とかでもなけりゃ、家に風呂なんて、普通はないわな。


 しかも水は、魔石から出したものだから、水道を引く必要も、井戸から汲んでくることもない。


『なにこの家、ちょっとしたお屋敷じゃない!』


 屋敷というほど大きくはないが、無駄に広くなく機能的ではあると自負するソウヤ。家の中は、この世界とは違う、つまり現代日本にある洋風建物をモデルにしていた。――日本にある洋風って、言葉にすると変な感じだ。


 始めは四角い箱をそのまま大きくしただけだったが、住むにつれ細々と改築して、内装もそれっぽくなってきている。

 家具や雑貨も増え、どこからどう見ても、家と胸を張れる出来となっているのだ。


「おっと、ソフィアの部屋を増築しないとな……」


 新しい住人のために増築。この辺りの改築も、アイテムボックス内である限り、ソウヤの制御で簡単にできてしまうのが利点なのだ。

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