第58話、コボルト軍団にゲリラ戦


 ダンジョンスタンピードは、コボルトの大集団が主力のようだった。


 ソウヤとミストは、調査隊冒険者たちを逃がしつつ、ダンジョン内のコボルト軍団を発見次第、通り魔よろしく襲撃した。


もっとも嗅覚と聴覚に優れているコボルトたちは、ソウヤたちに奇襲されることはほぼなく、会敵したらその場でお互いに向かっている格好だった。


 だが所詮は、ゴブリン以上、オーク以下のモンスター。元勇者のソウヤと、ドラゴンが化けているミストの敵ではなく、屍と化していく。


「オラオラァ! 道を開けろってんだ!」


 比較的狭めの通路で出会えば、斬鉄を振り回すソウヤに粉砕される。進路上のコボルトは、さながらトラックに轢かれた野菜のような有様。


 また、ソウヤが武器を振り回せないほど、さらに狭い場所だと、ミストがドラゴンブレスを吐いて、ほぼ一列に並んだコボルトどもをまとめて焼き払う。


 開けた場所で集団に出くわせば、ボーナスタイムの到来。ミストのブレスはもちろん、ソウヤの怪力を用いた人間投石器による巨岩攻撃が、複数のコボルトを巻き込んだ。


 仲間がやられたそばから難を逃れた個体が、ソウヤたちに迫る。だが――


「そうは問屋が卸さないってな!」


 チームワークの発揮。ミストがブレスを撃つ時は、ソウヤがカバー。逆にソウヤが投石やその他、ボックス内アイテムを駆使する時はミストが援護して、敵を寄せ付けない。


「わざわざ潜り抜けてくれたのに、悪いわね」


 コボルトの肉が裂かれ、骨が砕かれる。向かってくる者たちは、壮絶な笑みを浮かべるミストの前にその命を絶たれていく。


「やれやれね。倒し過ぎて、どれだけ仕留めたか、わからなくなってしまったわ」

「まとめて吹き飛ばしながら、数えてたってか? 嘘だろ?」


 ソウヤは首を振る。


「じゃあ、わかるところまででいいけどさ。どれくらい減らしたと思う?」

「ざっくり、三百くらいは仕留めたわね」


 たった二人で三百くらいは上出来過ぎるか。


「やるじゃん、オレたち」


 そこそこ疲れてきたが、まだまだ余力を残しているソウヤである。このまま戦い続けても、これまでと同数程度は減らしてやれると感じた。


「そういうこと。ガンガン、敵を狩るわよ!」


 次の場所へ移動する二人。道中の敵を排除しつつ、巨岩を使った攻撃を行いながら、道を封鎖していく。これによりダンジョンの外へと向かうルートを減らして、コボルトの大集団の通り道を限定する。


快進撃。たった二人の冒険者は、ダンジョンを駆け回り、ゲリラ的襲撃でモンスターの数を減らしていった。



  ・  ・  ・



「さて、後いくつ残っている……」


 しばらく戦っていたソウヤとミスト。現在、ダンジョン一階層。ソウヤは前回作成した手書きのマップを見ていた。


 だが、全部を探索していないので穴だらけだった。こんなことなら一階層とはいえ、隅々まで歩き回るべきだった。今さら言っても後の祭りである。


 ダンジョンの奥から上がってくるコボルト軍団だが、その通り道を全部把握できないのが問題だ。すでに先に抜けた連中がいるかもしれない。いや、いるに違いないとソウヤは考えている。


「わかる限りのルートはいくつか潰したが……。こっちの後ろへ回り込まれると厄介だ」

「そうねぇ」


 ポーションを口にするミスト。再生自慢のドラゴンに、果たしてポーションがどれほど効果があるのかわからないが、気分の問題のようにも思える。


「一応、そういう迂回を避けるために、入り口側へ下がっているわけだが……。ここでエイブルの町の冒険者たちに引き継がせていいものかどうか……」


 総数がわからないから、あとどれくらい残っているのかさっぱりわからない。冒険者たちと合流すれば、ソウヤとミスト自体の負担は減るが、攻撃手段も限られる。


 間違っても、冒険者たちの前で、ミストがブレスを吐く光景を見せるわけにもいかない。


「もう少し、ここで粘る?」


 ミストが上目遣いを寄越した。まだ戦えると訴えているのか。さすがドラゴン。ソウヤ的には、そろそろ一息つきたい。


「そうだな。もう少し後ろに下がれば、入り口までのルートが二つにしぼられる。そのうちの片方をオレたちで塞いでしまうのも手だろう」


 一本のルートに陣取って敵がやってこなくなるまで潰せば、終わりも見えてくるに違いない。


 どうせ、外の冒険者たちにも、コボルト軍団の総数なんて知りようがないのだから、見てないところでどれだけ潰そうがかまわないだろう。


「願わくば、向こうのルートの敵がこっちより多くありませんように……」


 冒険者たちで抑えられる数であることを祈る。ソウヤとミストは迎撃地点まで下がった。


 先日、ヒュドラと戦った大きな空間である。下がり過ぎたら、冒険者の斥候とかがいるかもしれないと思ったが、そんなこともなかった。


「表で迎え撃つつもりなのかな、ギルド長たちは」

「あるいは入り口前で待ち伏せするつもりかもよ」


 ミストは言った。


「あそこまで下がれば、一本道だし、狭いから多数の敵も一度に進めないから」

「なるほどね。入り口に戦力を集めて栓をする格好だな」


 悪くない策だ。これなら敵は正面からしかこないから、向かってくる敵が全滅するまで頑張ればいい。……シャットアウトか、疲弊して突破されてしまうかの勝負である。


「なら、こっちはこっちで敵さんを歓迎してやろう」

「栓で思ったけど」


 ミストが神妙な顔になった。


「物理的にダンジョンの入り口を岩で塞ぐって手もあるわよね? そうなったら、ワタシたち、閉じ込められない?」

「うーん、考えすぎだと思うぞ、それ」


 爆薬か何かで入り口を崩落して通行止めに、という策もあるかもしれない。


 仮にそうなっても、アイテムボックスに土砂を取り込んで撤去する方法がある。少々時間はかかるが、空腹で餓死するほどかかることもないだろう。アイテムボックス内に食料もある。


「入り口封鎖は確かに有効的かもしれんが、一時的だろ。ダンジョンに入れない間に、モンスターが増殖したら厄介だし、土砂を撤去して出てきたら、今度こそ町はヤバい」


 ワーム系の地面を掘り進むタイプが道を切り開き、そこを通って中のモンスターたちも外へ。……ゾッとする未来。


「……とか言ってる間に団体さんのお着きだ!」


 ソウヤたちのいる反対側から、わらわらとコボルトが流れ込んでくる。相変わらず、うるさい猛犬のような声を響かせながら、こちらへと向かってくる。


「ミスト。まずは先制」

「わかってるわ。まとめて吹き飛ばしてやるわ!」


 ヒュドラと戦った広々とした空間は遮蔽もほぼない見通しのよい場所。遮るもののないそこは、霧竜のブレスの絶好の放射地点だ。

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