第23話、メンバー面接
冒険者ギルドの人材募集板の前で出会った冒険者らしき少年から、募集用紙、その募集人――つまりその少年の概要欄を見るソウヤ。
本人から許可を得たので、さっそく目を通す。
――ふむふむ、ポーターなのか。
いわゆる、荷物持ちだ。ダンジョンなどに挑む際、個人が携帯できる量は限られている。目的地へ向かうまでに荷物をたくさん持ち込みたい、とか、逆にダンジョンで手に入れたものを多く持ち帰りたいとか、そういう時に利用される。
武器とか持たない分、物を運べるという考え方であるが、当然ながら戦闘力に関しては一部を除けば、一般人も同然で、連れて行く側がきちんと守ってやらないといけない。だから、難所へ挑む場合は足手まといになる可能性が高い。
――体が小柄なのは、閉所をいく場合は武器になるが、体力は筋力の面でマイナスだよなぁ。
逆に体がガッチリしていれば、荷物の量も期待できる一方、閉所で進めない、跳躍力や身軽さが重要な場所では使いづらいという問題もある。一長一短。
――ま、アイテムボックスがあるオレとしたら、荷物持ちはいらないけど。
ソウヤは肩をすくめつつ読み進める。
薬草鑑定可能、パーティーの買い出しや戦利品の売買、解体、その他雑務が可能。
――パーティーの雑務っていうか、使いパシリみたいだな。
率直な感想がそれである。実際、そうなのかもしれない。
「君、ポーター歴長いの?」
「三年くらいですね」
三年……結構長い。しかしその割に、冒険者ランクはE。
「ずっとソロで活動を?」
「いえ……その、先日までパーティーを組んでいたんですが……」
何とも歯切れが悪く、すっと視線を逸らしてしまう少年。その表情から、ソウヤは察する。
「……クビになったか」
「! ……はい」
少年は俯いた。
「戦闘ではお荷物なので、追い出されました。皆の足を引っ張ってるからって――」
「荷物運びが仕事なんでしょ? お荷物って当たり前なのに?」
ミストが意味をわかっていないのか、結構エグいことを言った。気にしていたのか少年がさらに落ち込む。
「あー、すまん、この娘、若干言葉に不自由なところがあるから」
「何ですって!?」
ちょっと黙っていなさい――ソウヤはミストに合図すると、視線を少年に戻した。
「君……ええーと、セイジ君?」
紙に書いてあったから名前で呼ぶことにする。
「戦闘に関してのアピールがないから聞くが、戦闘はできる?」
「スライムとか単独のゴブリンくらいなら……」
ぶっちゃけ雑魚モンスターだ。冒険者ならこれくらい倒せて当然に見えなくもない。
「スライムの対処できる?」
「はい、スライムは火に弱いので、たいまつや燃えるものさえあれば」
きちんと知識はあるようだ。
はてさて――ソウヤは大体のところを理解した。
よくある話だ。パーティーの裏方だった少年は、強い魔物と戦えず、仲間の足を引っ張るから追放されたというやつ。
これまで仲間を支え、戦えないなりに知識を蓄え、雑務をこなしていたのだろう。だが、戦闘での評価こそ一番だと考えているパーティーメンバーからは『役立たず』の烙印を押されて追い出された。
――まあ、パーティーにも事情があるんだろうし、裏方を軽視した連中を無能と断じることはできないが……。
正直、俺は目の前の少年のことをほとんど知らない。とんでもないドジっ子だったり、真面目そうに見えてサボりの常習とか、正当な追放理由があったのかもしれない。
このあたりは、実際に組まないとわからないところだ。
「君はパーティーメンバーを募集していたな?」
「はい。……その、今の僕では、ソロはかなり厳しいので」
「オレたちもパーティーメンバーを募集している。物を見る目があって、物の値がわかる奴だ。戦闘力については二の次だ」
「それは、物資調達で、できるだけ安く、よい物を購入したりする、ということでしょうか?」
セイジは真顔で聞いてきた。微妙に違うが、必要としているスキルとしてはほぼ同じだろう。物を見る目がないと難しいことだからだ。
「オレたちは冒険者だが、本業とするのは行商なんだ」
「行商……ですか」
かすかな驚きと共に微妙な顔になるセイジ。無理もない。冒険者パーティーに入ろうとしているのに、商人のパーティーだった、なんて。
「冒険者でもある」
組むのなら説明は必要だ。ただの冒険者パーティーではないことを最初に言っておかないと詐欺になる。
ダンジョンで手に入れたものを各地で売ったり、危険場所に商品を持ち込んで、冒険者や旅人の探索支援をしたりする。
「で、君にはオレたちに足りない商品鑑定や値付けでサポートして欲しい」
主な仕事を説明。役割がわからないと不安だろうから、という配慮である。しかし、セイジの表情は硬い。慎重にこちらの話を聞き、パーティーに加わっていいのか考えているのだろう。
「そういえば、プライベートなことを聞くけど、君、この町の出身?」
「たぶん……」
「たぶん?」
「両親は冒険者だったと聞いているんですけど、僕が物心ついた頃には……亡くなって」
聞けば、両親を失った後、冒険者の子を引き取るこの町の孤児院に入って育ったらしい。いつ死ぬかわからない冒険者家業だ。もし自分の身に何かあったら――ということで、冒険者たちで作った施設なのだそうだ。
そこで、セイジは冒険者見習い兼運び屋となったのだと言う。そこで施設の年齢上限がきて独立。戦闘は苦手だが、運び屋として冒険者パーティーに加えられて活動したが……つい先日、そこをクビになったらしい。
「じゃあ、今は家は?」
「ありません。冒険者ギルド管轄の安宿にいるのですが、金銭の蓄えがもう尽きかけていて……」
と、途方に暮れたように肩を落とすセイジ。パーティーを追放されたことで、持ち物もほとんどないらしい。支度金も出さないとか、何て奴らだ、とソウヤは思った。
「じゃ、オレたちと一緒に行動する分については、特に問題はないわけだ」
「そうなりますね……。お世話になるということは、ご迷惑をかけることになりますが」
「なに、大した持てなしはできないから、こっちこそごめん。でも食事代とかはオレが面倒みるから、そこは心配しなくていい」
かくて、ソウヤとミストのコンビに、新しい仲間が加わることになった。
「そういえば、ソウヤさん」
早速、セイジが言った。
「このパーティー、名前はあるんですか?」
「あ? 名前?」
――そういえば、なかったな。
ソウヤは髪をかく。行商は固有の店がないが、商売をするにしても何か名前があったほうがいいだろう。冒険者パーティーも然り。
「そうだな……このパーティーの名前は――」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます