1-78 消耗
───開戦から10分程度後
未だに二人の激しい撃ち合いは続いており周囲は興奮の坩堝と化していた。だが、
「お、おい! おかしくねぇか?」
「お前も気付いたか。親父の奴どうしたんだ?」
オーガの若き戦士達はゾルトラの違和感に気が付く、それは、
「ッハァハァハァ!? クソがッッ!!」
不規則な呼吸、滝のように溢れる汗····· ゾルトラは明らかに体力を消耗させられていた。
(くそがっ! この野郎、俺に何をしやがった!?)
否、ダリルが仕掛けた訳では非ず。
(どうだいゾルトラ、辛くなってきたか? ココネオ村との殴り合いとは違ってな····)
───時は1日前に遡る、王都城壁外側の滝壺前にて
プルムとダリルはかつてストレリチアと激闘を繰り広げた滝壺前にて『必殺技』の修行をしていたが、
「·····よし、完成だな」
腕を組みながら一言呟くプルム。彼の眼前には肩で息をするダリルと、
「ハァハァハァ、簡単に言ってくれるぜ。お前はよ·····」
まるで砲撃の乱れ撃ちにでもあったかのように無数のクレーターが刻まれた崖ッッ!!!!
「なんだい相棒? こんなにすげぇ『必殺技』が完成したのに嬉しくなさそうだな?」
ダリルは深くゆっくりと深呼吸して息を整えると返答する。
「····威力は破勁以上だが、向こうが黙って反撃しないとは思えんしな」
このダリルの疑問に対してプルムはその通りと頷く。
「相棒の懸念はその通りだと思うぜ。ゾルトラを倒し得るこの『必殺技』も、溜めの大きい破勁もまともにやってちゃあ放つ隙を与えてくれないだろうな」
「? では、どうしろと」
「『まとも』な状態にしなきゃいいんだよ、ゾルトラの弱点をついてな」
「·····体力か·····?」
「何だ、気づいていたのか相棒?」
「アイツと一時間以上殴り会えば阿呆でも分かるさ」
プルムは呆れたかの様に軽くため息をはく。
「そんな奴は世界広と云えど相棒ぐらいだと思うぜ······ なんにせよ圧倒的強者故といえば良いのかな? オレが知っている範疇だとゾルトラは今まで苦戦らしい苦戦をしたことがなくほとんど一撃で敵を葬ってきが、裏を返せば長期戦には慣れてないはずでもある。様はアイツが疲れきるまで体力を消耗させた後に必殺技をぶちこめってことさ!」───
───現在に戻る
プルムの予想は的中していた。ゾルトラは経験したことがなかったのだ、全力で何度も殴っているのにも関わらず倒れることの無いダリルの様な存在をッッ!!!
それに加え、ココネオ村で無敵のタフネスを誇る自身に膝を付かせた『強力な突き』攻撃がいつ放たれるかとの緊張が、無意識下ではあるがゾルトラの体力のみならず、精神をも消耗させていた。
無論、『強力な突き』、つまり破勁はその溜めの大きさ故にハイテンポの攻防を繰り広げている今の段階で撃てる筈もないが、そんなことゾルトラが知る由もなかった。
苛立ち始めるゾルトラ、だかそれは自身の疲労故にだけではなく、
(ダリルッ!? てめぇは何でそんな涼しい顔をしてやがるんだぁ····ッ!)
ダリルはゾルトラ以上に打撃が直撃しないよう激しく動いていたが、その表情は全く疲労を感じさせなかったッッ!!!
荒々しく呼吸をするゾルトラを見て、ダリルは不適な笑みを浮かべる。
(呼吸が乱雑だせゾルトラ····· 悪いがこのまま押し切らせて貰うぞッ!!!!)
ダリルの底無しの体力····· それはメッサから続けて来た、『水中呼吸』によって育まれていたッ!
ダリルは王都に着いてからも時間の曖昧や、重症を追って激しい修練が出来ない期間に続けていたのだ。その最高記録は驚異の59分27秒ッッッ!!!
斯くして規格外の肺活量を手に入れたダリルは10分以上全力運動しているのに関わらず息一つ切らしておらず、理合の強度も一切落ちていないッ!
一方ゾルトラは既に息も途切れ途切れ···· 当然、呼吸の乱雑さはマナを練ることを阻害=身体強化魔法の強度の低下を招き──
「ッッゴフッッ!?!」
ダリルの両鉤突きがゾルトラの腹部を挟み込むと同時に吐き出される息ッッ!!
理合の矛が、身体強化魔法の盾を撃ち破り始めていたッッッッ!!!!
常にゾルトラの傍にいたオーガの若人達はこの戦場にいる誰よりも知っている。このオーガの有無を云わせぬ破壊力を誇る拳を、どんな攻撃でも微動だにしないタフネスさをッッ!!!!
ココネオ村でのダリルは確かにゾルトラに苦悶の表情を浮かばせ、『偶然』とはいえ一度は膝を付かせた──
だが、それはゾルトラが戯れたからッッッッ!!!
本気で潰す気になったオーガ最強の男を前にして立ちはだかれる者などこの世に皆無ッッッッ!!!!
しかし、ダリルは再びこのオーガの若人達の幻想を打ち砕くことになる───
「!? 下がっているだと!? 親父が下がっているだとッ!?」
激しい撃ち合いは続けれど、どれ程の強敵でも前進し粉砕してきたオーガ最強の男の足が遂に下がり始めたッッッッ!!!!
この光景にフランシア陣営からは歓声が大いに上がり、魔王陣営からは悲鳴のような嘆声がこだまするッッ!!!
そして一人の業を煮やしたオーガの若人が主人であるゾルトラに怒声を飛ばすッッ!!!
「親父ィィ!!! 余裕こいてねえでさっさと『戻り』を使えぇえぇッッ!!!」
「そうだぞ親父ィィ! このままじゃあ本当に負けちまうぞ!?!?」
『我ら魔族最強の男の情けない姿などこれ以上見たくはないッッ!!!』
そう謂わんばかりの怒号という名の鼓舞する言葉がゾルトラに投げ掛けられるが、
(好き勝手言いやがってあのバカ野郎共がよぉッッ!!! 『戻り』をつかえだぁぁ? 俺だって使いてぇけど使わせくれねぇんだよ!! ダリルの野郎がよぉッッ!!!)───
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