1-52 敗北と引き替えに
男は目を覚ます。無事な箇所など何処にもない、身体全てから耐え難い痛みが襲ってくる。
そして思い出す。闘いの決着直前、信じがたい速度で迫り直撃したら間違いなく即死であろうストレリチアの一撃に対し、一歩を、死線の先へ踏み出し·····
そして敗北したことを······
「·····目が覚めたようだな、ダリル」
横たわるダリルが顔を向けるとそこには粉砕された左腕に副木をくくりつけている勝者たるストレリチアが佇んでいた。
「·····やっぱり強いんだな、アンタは」
「ああ、これでも剣聖をやってるんでね···· どうだ、今の感想の方は?」
「存外悪いもんでもないな···· 負けるってのも」
「フフ、それは負けたからではない、お前は手に入れたからだよ、敗北と引き換えに『勝利への執念』をな····· 見事だったよ最後の一撃は。初見で雷撃にカウンターを入れたのはお前が初めてだ」
「それもアンタに読まれ防がれたけどな」
最後の攻防で放ったダリルの正拳突き、それはストレリチアの顔面を狙ったものだったが、雷魔法で恐るべきほど強化された反射神経によって、接触直前に左腕に阻まれたのであった。
どこか愛弟子を見るかのような目付きから、一転してストレリチアは真剣な眼差しでダリルを見つめる。
「·····ダリル、お前に問う。格上との闘いにおいて抱いた『勝利への執念』、それを何と見た」
ダリルは目をつむり闘いを思い出す。抱いたのは高揚、恐怖、そして──
「······恐怖だ、闘いの本質は恐怖。そして迫り来るそれを拒絶せず無視もしない、ただ肯定して生き残るために前へと突き進むこと····」
「死を直前にして、恐怖を受け入れ生きるために前へと突き進むか···· なるほどなお前らしい答えかもしれん」
「····死んでしまえば最強を目指すことも出来ないからな····」
その発言にケラケラと愉快そうにストレリチアは笑う。
「ハハハ、その通りだなダリル。敗北したから道が閉ざされる訳じゃない、何度負けてもその度に生き残り最後に勝利すれば良いんだ」
「せんぱーい! 迎えの馬車来ましたよー」
ベロニカの声を聞くとストレリチアはダリルに肩を貸し、共に歩き始める。
「毎度毎度ここまで来るのも大変だろ? 私が話をつけておくから明日からグランオルドルの修練場を使用しろ」
「·····アンタ意外と良い奴なんだな」
「意外は余計だ····· それに迷える若人を導くのは人生の先輩の役目だろ、違うか?」
ストレリチアが得意気に話す一言でダリルも微笑み、「違いない」と言ったのであった──
───次の日の朝、グランオルドル修練場
『グランオルドル騎士団長のベルモント氏!! 卑劣なる和平の使者を装った魔王軍の刺客である黒狼騎士団メンバーからマリー王女を御守りするため壮絶なる戦死!!!!』
「そりゃあ国民的英雄『獅子王』が裏切り者でしたなんて言えんわな」
プルムは朝刊の見出しを読みながらそうツッコむ。
「なんだ、知っていたのかお前·····?」
「あったりまえよ相棒! こちとら伊達に200年生きていないんだ、ジジイの勘舐めるなよ!!」
二人は王宮の隣にあるグランオルドルの修練場に来ていた。ここには個人戦のリングが複数ある他、室内プール、筋肉トレーニング用の器具、はたまた大浴場とマッサージ施設が併設されているなど豪華絢爛な造りとなっているのだ。
「しかし、あのストレリチアが一筆書いてまで部外者の相棒のために修練場を使わせてくれるとはな···· アンタらあんなに険悪だったのに昨日の夕方に何あったの····?」
色恋沙汰を期待するプルム、ダリルはこれを軽くあしらう。
「稽古をつけて貰っただけだ、死ぬほどきつい稽古をな。そんなことより今日はどんなトレーニングをするんだ?」
「まぁ、一言で言えばフットワーク関係かな」
「フットワーク? この前の水中呼吸みたいな、基礎トレーニングじゃないのか?」
「この前のロベリア戦を観戦してまたまた分かったんだよ、相棒の弱点がな。だがトレーニング相手がまだ来てないんだよな~」
「誰なんだそのトレーニング相手は?」
「オレも分からん! ベロニカ経由でストレリチアにグランオルドルの一級騎士三名程度見繕ってくれと伝えたら、傭兵達の中で適任者がいるからと──」
「そいつは俺たちのことだよ····!」
「フフフ、お久しぶりですねダリル殿。ランヌの頃より腕を上げたようですがそれは私らとて同じッッ!!」
何やら因縁深そうに背後からダリルに話し掛ける二人、振り向くとそこには──
「忘れたとは言わせんぞ、俺は『バルバロッサ』のビスマルクッッ!!」
「同じく、『破壊牧師』クロムウェルッッ!!」
「「ランヌでの雪辱はらさせて貰うぞッッ!!」」
仲良さそうに息ぴったりにリベンジ宣言するリーゼントとモヒカンの大男、当のダリルは「? 誰だこいつら?」と言わんばかりの表情をし、プルムは顔面蒼白になるのだった──
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます