1-51 執念

ベロニカは信じられない光景を目撃····否、目撃出来ずも音と触覚のみで驚愕していた──


二人が再び構え同時に駆け出した直後──


「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ!?!?」



もはや目を見開くことすら不可能なほどの爆音と爆風を奏で始めたッッッッ!!



ストレリチアは己の雷魔法を全て出し切り、目で捉えることが困難であるほどスピードて駆けているがッッ!!


(ッッ!! コイツ、ここまでかッッ!!)


ダリルは雷速の動きに追従し始めていたッッ!!


交差する拳と刃、互いに当たらずとも数ミリの世界で掠め合い、いずれはどちらかが直撃するのは明白。


なぜ『勝利への執念』を得たダリルは突如ここまで善戦し始めたのであろうか?


それはスピードが上がったため?


否、寧ろ消耗で遅くなっている。


ならば反応速度が上がったため?


それも否、多量の出血は判断力を低下させていた。



答えは、踏み込みッ! 


死線を越え、たった一歩深く踏み込めたことでストレリチア相手に攻撃を避けるだけではなく反撃をも可能たらしめ、やがては──




(!?!? しまっ───)




雷速を捉えることすらも可能としたッッッッ!!!


ストレリチアの刺突を左に避けたダリルは、全力で腰を回転させ彼女の無防備な右肋骨へと左鉤突きを撃ち込んだッッ!!!


ダメージは甚大なりッッ! だかストレリチアは怯まないッッ!


汲み上げてくる激痛に耐え、剣聖は空を切った刺突の剣先を左薙ぎにして斬りかかるッッ!!


肉を切り裂く音と共に飛び散る鮮血、だが剣先が切り裂いたのはダリルの首ではなく防御の体勢を取った右腕のひじ下ッッ!!


ストレリチアは軽く舌打ちすると、ダリルの腹部を蹴り押しその反動で自身を後ろへと後退させる。


もはや一本と言うには十分過ぎるほど一撃を与ええても尚、ダリルは闘いを辞めようしなかった。


男は自分の中で何かが変わろうとしていることを、何かを掴み取れそうなことを感じ始めたのだ。


ストレリチアもその男の意を汲み、剣を右肩に担ぐように構える。そう、あのベルモントすら屠った『雷撃』の構えであるッッ!!


睨むみ合う両者、男は女が放つプレッシャーをひしひしと感じながら、幼なじみで強敵であったロベリアのことを想う。


(·····そうかロベリア、お前が見ていた光景はこれだったんだな)


向かい合っている遥か格上たる剣聖を自身と重ねる、ロベリアにとっては同じ状況であったと。



心拍数は上がり、肌は緊張で焼け焦げるように熱い······



お前はこんなの相手に戦っていたのかと──




やがて、十分に雷魔法を纏ったストレリチアは重厚な一歩を踏み出す──


その瞬間ダリルは勿論、観戦者のベロニカも本能で察した。


(く、来る! 何かは分からないけど信じられないほどの爆音と衝撃が!)



間一髪、ベロニカが鼓膜が破れないよう両耳を塞ぐとそれは予測した通りにやって来た──



大地を砕きッ!! 滝壺の水が跳ね上げながらそれはやって来たッッッッ!!



王宮の時とは比べものにならないほどの破壊的なまでの一歩は、ストレリチアを雷速の遥か先、光速の世界へと誘うッッ!!



対するダリルは事前に深呼吸したことで理合で左拳のみ強化、そして向かってくる光速のストレリチアに対して──


(今っ!───)


怯まず一歩を踏み込みッッ、完璧なタイミングでカウンターの正拳突きを放ったッッ!!










最後の轟音から数秒間、激闘の音が収まりベロニカの耳には滝が水面を打つ落としか聞こえなくなった。


ベロニカはゆっくりと目を開くとそこには──



地面を抉りながら吹き飛ばされたのであろう、岩石にめり込んでいるダリルと──



「····参ったな、軽く稽古つけてやるつもりだったが····· こっちが高い授業料払うはめになったな·······」



赤黒く腫れ、完全に破壊された左腕を右腕で支えるストレリチアの姿があった。



勝敗は決した──



初の敗北を喫したダリル、だがその男の心中はどの勝利した時よりも満たされ──


「·····つ、掴んでやったぞ。ストレリチア、次こそは必ずお前に──」


そのまま地に倒れ気絶したのだった──

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