1-24 呪印装術
──三時前、メッサ郊外湖にて
再び爆音を立てながら湖から立ち上る水柱
「お! 21分、好タイムだね~ しっかしすげぇ水しぶきだな! どんなマナの練りかたすりゃあこんな爆破みたいなこと出来るんだよ」
プルムはそう言うと考え込んだ。
(····そう、ダリルは間違いなくマナを練ることと、理合に真髄である留めることと循環させる技術においては超一流と言っても過言ではない···だからこそ目立つんだ、『呼吸』の粗末さに)
プルムの観察眼はここでも発揮し、ダリルの決定的弱点の『呼吸の乱雑さ』をギレム戦での呼吸音のみで見抜いていた。これは魔法使い時代の癖であって、中長距離かつ集団戦かつ比較的ローテンポな戦闘の魔法使いでは気にするほどではなかったが、超短距離かつ個人戦かつ比較的ハイテンポな戦闘を想定している理合使いでは必要以上の呼吸そのものが闘いにおいて無駄な間を作ってしまい、致命傷を受ける切っ掛けになるのだ!
(故に理合使いに求められるのは、必要最低限の呼吸かつどれ程心拍が乱れようと整った呼吸をすること····しかし今のダリルには2つとも持っていない。相棒に理合を教えたのがあの有名な武神ラウと同一人物かどうかわからんが実戦家がこれを見逃すはずがない·····)
「····だとしたら何故だ? 何故、わざと教えなかったんだ。知ったからか? ダリルが『神が宿りし者』の可能性があることに····」
思わず頭の中を考えを口にするプルム、そして息を切らしながらその前に立ち塞がるダリル。
「····悩んでいるところ悪いが、そろそろ回復たの───」
そう言うとダリルは地面へ倒れてしまった。
「あ、ごめんごめん! 今、治療魔法かけるから」
プルムはまた筆を取り出したらダリルの胸の辺りに魔方陣を描き呪文を唱え始めた。
(体がみるみる軽くなっていく·····治療術師として一流というのは嘘じゃないみたいだな。だが、もう一方の方は·····)
疑問を持っていたダリルはプラムに問い掛ける。
「なあ、プラム。一つ聞きたいんだが」
「なんだい? 相棒」
「お前が作ったと言っていた『呪印装術』とやらを俺に施すことは出来ないのか? ギレムはあれのお陰で相当強化されていたように見えたが」
「····耳が良いと聞いてはいたが、あの距離の会話まで聞こえるなんて凄すぎでしょ····答えは、No。今のアンタじゃ、あれを施しても意味はない」
「今はだと? どう言う意味だ」
「今の相棒の精神状態じゃ出来ないってことさ。質問を返すようで悪いが、相棒は戦闘中に感情の昂りによって人は強くなると思うかい?」
「なんだ藪から棒に····俺はそうは思わん。そう感じることがあってもそれはただの錯覚に過ぎないし、下手をすれば集中力を必要以上に欠き平常心以下の実力派しかだせん」
ダリルは上半身をゆっくりと起こして、そう答える。
「成る程、アンタはそう考えるのね····確かに感情による効果は未だに曖昧な部分が多い。だが『呪印装術』は違う····· ある感情を持つことで明確なほど強化されるんだ」
「ある感情とは?」
「怒り、悲しみ、絶望、嫉妬、後悔、俗に言う負の感情というやつだ。これ等が強ければ強いほど大気中のマナの吸収を促進して、術者を信じられないほど強化する」
「····成る程、確かにパーティーを追放された直後の俺だったら効果的だったかもな···· しかしプルムよ、お前もケッコウな悪党だな? 何故そんな外道じみた術を作り出したんだ」
プルムは僅かに視線を下に逸らし、少しの沈黙の後、語り始めた。
「ま、それは秘密てことにしてくれよ!」
「····わかった。そういう事にしておこう」
ダリルの意外な返答にプルムは目を丸くした。
「なんだ、その顔は····」
「い、いや~相棒の性格的に『ダメだ、全部話せッ!』とか言ってくるもんだと思って」
「喋りたく無い事を身勝手な自分の好奇心だけで無理に聞き出そうとするほど俺も野暮じゃない。それに今の俺にとってそこまで必要な情報とも思えんしな」
「····以外に優しいところもあるんだな、アンタ。もしかして気を使っているのかい?」
「抜かせ····それよりも修行を再開するぞ! もう半日もないからな」───
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