1-15 王女の御趣味

「ふ~やっと着きましたね! 二つ目の町メッサ! 誰かさんがずっ~と御者変わってくれないからもうクタクタですよ~」


背伸びしながらチラチラとダリルを見てイヤミを言うベロニカ。


「だそうだぞ。マリー」


が、それを全く意にも返さないダリルッ!


「え! そ、そうよね。私ちょっと甘えてたわ....ごめんね、ベロニカ....」


真に受けてへこむマリーッッ!!


「ちちちち、違いますからね! マリー様!!」


そしてガチで焦るベロニカッッ!!!


そんな茶番を繰り広げる三人が到着したの宿場町として有名なメッサ、一向は本日の宿を見つけるため馬車を預け町の中心部へと向かう。王都と国境の町アルザーヌを結ぶ位置にあり、普段はこの二つの町を行き来する商人が寄る位の静かな町であったが───


「ひやー、やっぱり私が来たときより賑わってますね~避難民で。今日泊まる宿見つかりますかね~」


我先へと隣国に逃げようとする人々の姿を見てマリーの表情が曇り始める。


「もう、国民もこの国に見切りをつけ初めたのね....」


「そんなに暗い表情とオーラを出すな。ローブを被っているとはいえお前の正体がバレたら面倒だからな....それにそれを何とかするために俺達は王都に向かっているんだろ?(俺はゾルトラと決着をつけるためだけどな....)」


「そうですよ! 元気出して下さい! 王都を守り切ればここにいる皆だって───ねえ、ダリルさん何だか人混みのずっと向こう先うるさくありません? その目茶苦茶いい耳で何か聞こえませんか?」


「確かにさっきから騒がしいな。誰かが追い掛けられていて....こっちに向かってるな」



それから数十秒もしない間に、その追いかけらている本人であろう小さな陰がダリル達の前へ──マリーへと向かっていった。


「きゃっ、だ、大丈夫?」


マリーは自分とぶつかり尻餅をついている、小さな人物に手を差しのべると衝撃を受けるッッ!!!


その顔を上げた幼女は....否!!エメラルドグリーンの美しい瞳と人形顔負けの端正にまでに整った顔、そして呆気なさが溢れんばかりの表情を持つ美幼女はマリーの心を鷲掴みにしたッッ!!!


(かわいぃぃぃぃ!?!?なにこの子、天使!!?あぁぁあん、もう人目がなければスリスリしたぁあい!!?!)


そう! マリーは大の可愛いもの好きなのであるッッ!! かわいい小動物や人形には目がなく、王宮での彼女の一室には十七年間でかき集めたプリティコレクションが所狭しと並んでおり、使用人からは博物館と揶揄されているほどなのだッッ!!!


そんな幸悦に浸っている彼女は美幼女の悲痛な叫びによって現実へと引き戻される....


「お願いします! 助けて下さい! プルム、悪い人に追いかけられているんです!!」


「誰が悪い人だ!! 奴隷の分際で逃げたし追って!」


マリー達がその怒声の持ち主の方向を向くと、そこには貴族風貌の中年男と、長身で昔のダリルと負けず劣らずガリガリの青白い不気味な男達二人が立っていた。


「プルム、早くこっちに戻ってこい! お前にはいくら払ったと思っている!!」


中年貴族の怒声に怯えたプルムはマリーの後ろに隠れ小動物のようにプルプルと震えている。その姿を見て黙っていられる可愛いもの愛好家の彼女ではなかったッ!!


「ちょっと! そんな大声出さないでよ、怯えてて可哀想でしょ!」


中年貴族はその言葉を聞いて鼻で笑う。


「ハッ、可哀想そうだと。何を言っている? これは躾だ!!駄犬を躾のと同じでな!」


その暴言でマリーは豹変!! ボルテージが一気に上がったッッ!!


「駄犬ですって!?!?こんなに可愛らしい天使のような子を!?!?もう頭に来たわ!!我が騎士ダリルに命じるッッ!!この不埒で無知蒙昧な男を滅殺しなさい!!!!」


「断る」


「なんでよッッ!!!」


「その男の言い分の方が正しい。所有物たる奴隷が逃亡したら捕獲するのが当然だからな....最も本当に奴隷だったらの話だがな」


その言葉を聞いたマリーはやっと奴隷ならあるはずの物が無いのに気がつく。


「ちょっと首筋にあるはずの奴隷紋ないじゃない!!本当に貴方の奴隷なの!!」


「うぐぅ、さっき奴隷商から買ったばかりでこれから施す所で逃げたのだ....」


勝機を見いだしたマリーは畳み掛ける。


「ダメよ!! そんなの通用するんだったら法律も憲兵も要らないのよ! 証拠がない以上この子は貴方に渡せない! そしてこんなになついてるから私が預かるわ!!」


本音を織り交ぜた無茶苦茶な暴論であったが、あまりの気迫と勢いに押され──


「くそ、勝手にせい!! おい行くぞ!」


中年貴族は付き添いの男に声を掛けると、文句をぶつぶつ言いながらその場を去って行った。


「お姉ちゃん、ありがとう!!」


幼女が彼女の足にあざとい笑顔をしながら抱きつくと再びマリーはヘブンモードに入り、そんな姿を後ろから冷めた目で見つめる二人であった──











「おい、どうだったやはり手強そうか?」


先ほどの中年貴族が歩きながら付き添いの男に問い掛ける。


「クカカカカ、ゴリアテ族を破ったという話は本当のようだったな。360度周囲からの襲撃を警戒しておいて、俺の事を一目見たら特に警戒してやがった」


「お前は殺れるのか、そんなの相手にして」


「正面からだったら危ういだろうなぁ。だが闇討ち、暗殺だったら問題ないぜ」


付き添いの男は不気味な笑顔を浮かべ、そういい放った。


「よし、それなら予定通り今夜仕掛けるぞ。奴等の行動はプルムで筒抜けだからな───」

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