1-12 巨人vs超人

砂塵が収まり、その光景を見た誰もが愕然としたッッ!!


誰が巨像の踏みつけを蟻が耐えきることを想像できようか。


突如現れた、この筋肉モリモリマッチョマンがゴリアテ族の一撃を防いだのはそれに近しい衝撃を全ての者に与えた。


無論この光景を一番近くで見ていたマリーも例外ではなく、尻餅をついている彼女の目にはダリルが自分の理想とする英雄『マルウス』の姿と重なって見えており、太陽の後光も差していたことからある種の神々しさすら感じ始めていた──


が、男のデリカシーのない発言で彼女はこの幻想から覚めることになるッ!


「おい、マリー下着見えてるぞ...」


「なっ!?」


その頬を赤らめ年相応のあたふたとした幼い表情を見せたと思ったら、軽く深呼吸をして直ぐに何時もの凛々しい表情に戻りダリルに対して声をあらげた。


「そんなことよりどうしてここにいるの!? 聞いてなかったの! 手助けはしないでって言ったこと!?」


怒りすら滲ませる彼女に対して男は


「誰が手助けすると言った? 俺はこいつの相手を横取りさせて貰うと言ったんだが? 」


と答え、彼女は予想外の返答に唖然とした。


二人が痴話喧嘩染みた会話をしていると、横からゴブリンの指揮官の部下に対しての怒声が鳴り響く


「貴様らぁー!? 何を呆けている、今のうちにあの男を討ち取れ!」


その言葉に反応したゴブリン達はエルヒガンテの棍棒を受け止めているダリルに一斉に襲い掛かるッ!


「チッ、戦意喪失してなかったか。あいつらの相手をするつもりは無かったんだがな...前言撤回だ、マリー俺に大声で『命令』しろ」


「何をよ『命令』って! 」


「あいつらを打ち倒せとか何でもいい。訳の分からん男に乱入されて手柄横取りされるよりは、お前が引き連れてきた騎士に命令して倒させたストーリーの方が住民の評判は良いだろう? 」


「!...いいわ...でも借りはすぐに返すからね! 」


そう言うと今度は深く深呼吸し、片手を前に出して高らかに宣言した──


「我が騎士ダリルにマリー·ロイが命じる! 我らの民の安寧を脅かす驚異を打ち倒せッ!」


「了解、お嬢様よっと!」


「ぬうぉ!?」


ダリルが棍棒に対して上に突き上げるように力を入れると、エルヒガンテはバランスを崩し大きな音と共に再び森に倒れこんだ。


「「「「ぐおォォォォ」」」


「さて、この手負いの身でどこまでやれるか試してみようか」


四方八方から襲い掛かる無数のゴブリンッ!!


しかしココネオ村で遭遇したゾルトラどころか取り巻きのオーガ達よりも遥かに格下なこの哀れなモンスター達では最早ダリルの相手にすらならなかったッ!!


男の拳と足はより素早く、より正確にゴブリン達の急所を貫きその命を一撃で刈り取っていった。


(う、嘘でしょ...!いくら下級モンスターのゴブリンといえど、この数をこんな僅かな時間で)


気がつくとゴブリンも、指揮官一体となっていた


「お前は来ないのか? 隊長さんよ」


「ひ、ひっいいい」


最後のゴブリンにトドメをさそうとした時、それは再び空気を震わすほどの大声で立ち上がった。


「ヌウォォォォォ!! ぬかったわぁ!! お主、ただの人間ではないな!!」


「元気な野郎だな。一応、『最強』を自負しているつもりだ」


「『最強』だと!? 我の一撃を防いだぐらいで図に乗るんじゃ無いぞ、小さき人間よ!!」


「なんださっきのは殺すつもりで撃ってきたのか? あんまりにも腑抜けた一撃だったから、俺の見せ場を作ってくれたのかと思ったよ」


「! その減らず口を黙らせてやるッ!」


激昂した、エルヒガンテは再び巨大な棍棒を振り上げる。


「...マリー少し危ないから下がっていろ。そしてよく見ていろ本物の『力』とやらを見せてやる」


「いくぞォォォォ!!人間!!」


その口調と表情の割にはエルヒガンテの頭の中は以外にも冷静だった。


巨人は自身の一撃が防がれる処か、あまつさえ怪力で押し倒され、そしてゴブリンを短時間で殲滅したのを総合的に判断し、ダリルという人間が桁違いの戦闘力を持っていると見抜いていた....


しかし! 巨人には人間に対する覆しようのないアドバンテージが存在し、それ故にエルヒガンテは自分の勝利を疑っていなかったッッ!!


そのアドバンテージとはなんぞや?


それは巨体故の怪力?


否!


それとも巨体故の生命力?


それも否ッ!


答えは巨体故の攻撃射程の長さ、つまり間合いの差であるッッ!!


ゴリアテ族は通常の人間より30倍ほど巨大であり、それは比例して手足の長さにも圧倒的な差があることを意味している。それに加え自分の身長ほどの棍棒を装備しているエルヒガンテの単純な攻撃ですら、長距離魔法攻撃と同等な有効射程を誇るのである。故にゴリアテ族が警戒するのは長距離魔法攻撃を使える魔法使いや、大砲等の攻城兵器なのだが──


(しかし! お主の戦闘スタイルは明らかに拳闘士の超接近戦のそれ!!...認めよう人間、お主は確かに強い..だが、どれ程強力な『力』を持っていても届かなければ無価値ッ!!)


エルヒガンテは振り上げた棍棒を両手で強く握ると、意を決したように振りおろしながら叫んだ!!


「我の渾身の一撃を防げた人間など皆無ッ!さらばだッ!!小さき、そして強き人間よッッ!!!」


その致命的な一撃はダリルに吸い込まれるように向かっていき──









轟音と爆風を奏で直撃したッッッッッ!!!

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