第112話 迷宮解禁

 連休終わり、級友たちの挨拶もそこそこに全校集会が行われた。


 緊急の全校集会だ。 説明もなく、「なんだ? なんだ?」と生徒たちも喋りながら、体育館に集められる。


 暫く騒めきが止まらない。 ひょこひょこと壇上で歩く老人 学園長が「皆さんが静かになるまで10分かかりました」と鉄板ネタから始まり、


「じゃ、もっと早く止めろよ!」と生徒からツッコミを受ける。


そんな事もありつつ、学園長は……


「えー 先日、発見された学園地下迷宮の調査が終わりました。 順次、成績優秀者から迷宮探索の許可を出していきます」


 その言葉、生徒たちは「――――」と沈黙で返し、次の瞬間には


 感情が爆発した。


 制約が付くとは言え、ダンジョン探索が学園内で可能となるのだ。


 その生徒たちの感情を表すとしたら「猛る」とだけで十分だろう。


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


「とは言え、私たち1年生がダンジョン探索の許可がでるわけないんだけどね」


 教室に戻り、通常に戻った授業。その終わりの休憩時間にルナが呟いた。


「え? そうなの?」とノア。


「学園長先生の言葉を思い出してみなさい。ダンジョン探索の許可が下りるのは成績優秀者だけよ」


「うん、でもルナちゃんとかなら、許可は下りてもおかしくはないと思うけど?」


「……貴方は、そうやってすぐに人が嬉しがりそうな事を口にする」


「?」


「しかも、自覚がないのが、余計に質が悪いと思うのよね」とため息をついて、ルナは話を戻す。


「良い事? 成績優秀者って私たち1年生は期末試験どころか、中間試験もまだなのよ」


「あっ……そっか、そもそも1年生にはまだ成績優秀者がいないのか」


「そうよ。入学試験の優秀者なら……って可能性はあるかもしれないけど、普通なら入試試験の上位者を発表するような真似はしないわよね」


「そうだよね。そっか。それは残念だ」


「……ノアさん、口で言っているほど、残念そうには見えませんけど?」


「そう? まぁ、休暇中にいろんな出会いがあったからね。 闇雲に挑戦することより、今は自分を高める事に――――」


 そこでノアは言葉を止めた。 視線の端から上級生2人が、こちらに向かってきているのが見えたからだ。


 1人は――――アルシュ先輩。 


 ランペイジ・アルシュ 魔法学園の2年生。


 魔剣研究部の部長であり、絶対的浮動のエース。


 全国1位の強者である。 それと同時に、魔剣制作者として数々の魔剣を有している。


 1人は――――エリカ生徒会長。


 名字は不明。 魔法学園の生徒会長。


 全国模試上位常連であり、『生徒側から学園を牛耳る知将』と異名があるとか、ないとか……


魔法に関しては、魔力量と精密性と速射力は学園1。 生徒だけではないく、教員を含めて1位ではないか……と噂されているが、今だその実力をみせた事はない。


 そんな2人がノアの前で止まった。 両者、頭を下げて片手を差し出した。


「ノアちゃん。僕は君の実力を買っている。ぜひ、僕と一緒に……」


「い、いえ。私だって、それは同じよ。アルシュじゃなく私を選びなさい。これは生徒会長命令よ」


 その光景は、まるでねるとんの告白シーンを連想させて教室には「ざわ…… ざわ……」と注目を浴びている。


 学園の有名人2人。 それも、男子が憧れるバッドリッチ将軍のご令嬢に求愛と思われる行為を行ったのだ。


「ちょ! ちょっと待った!」


 声と共に手を上げて、ルナが2人の横へ立つ。


「わ、私もずっとノアさんの事を……」


「「え?」」とアルシュとエリカ生徒会長。


「君は、1年生ではないのかい?」とアルシュ先輩。


「なんですか! 年齢は関係ないと思います!」と憤慨とも言えるルナの態度に2人は顔を見交わす。


「えっと……何か勘違いしてないかしら。私たちは、ノアさんを迷宮探索のPTに勧誘しているのよ」とエリカ生徒会長。


「……」とルナは、無言になる。 そのまま、自分の席に戻ると顔を伏せて……


「ルナちゃん……もしかして泣いてる?」


「な、泣いてないわ!」



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