解禁 魔法学園の地下迷宮
第111話 魔法学園の地下開拓
大型連休 炎の1週間
その数日前、魔法学園の地下ダンジョンにて
「予定よりも少し早まりそうだ」
手元の地図……いや、よく見えれば工事の図面のような物を見ながら呟く男。
枢機卿。 国教とも言える宗教団体『教会』を代表する精神的指導者。そして、ルナ・カーディナルレッドの父親だ。
しかし、今の彼は純白の聖衣を脱ぎ去り、作業着に身を包み、頭にはヘルメットを装着している。
工事現場の指示をしている偉い人にしか見えない。
そんな彼に女性が近づいて来た。 修道服を着ているのだから、当然だが
彼女は枢機卿の前で跪く。むき出しの岩肌でも構わずに……
「枢機卿……まもなく『炎の1週間』が始まります」
「えぇ、もちろん知っています」
「ならば、聖地エルリサムにお帰りください。多くの同士が貴方の指導を待っています」
それまで、図面を見ていた枢機卿が顔を上げた。それから、
「できませんね。一度、着手した仕事は最後までやり遂げねばなりません」
「そ、それはバッドリッチ将軍に任せて――――」
修道女は最後まで言えなかった。 枢機卿は、今までに見せた事のないような険しい顔を見せたからだ。
しかし――――
「もう少し私に近づきなさい」
「え? はい?」
「いいから、早く」
枢機卿は力強く彼女の体を自分へ引き寄せた。
「す、枢機卿!? いけません。貴方は妻子がある身です。神に使える御方が、そのような不貞行為を! でも、私は、それでも……」
「うむ……前から君の信仰心は色恋事に弱いと知っていましたが、少しは周りに気を配りなさい」
「えっと……?」と修道女は、キョロキョロと周囲を見渡す。
「何も変な事はありませんが……いえ、これは、音?」
「はい、そろそろ彼が到着する時間です」
「彼?」と彼女は聞き返す事ができなかった。 なぜなら、そんな疑問を吹き飛ばすような大きな音と声が――――
『バッドリッチ流奥義 猛虎浮上撃覇』
地面が爆発した。 その衝撃で地面の岩は舞い上がり砕ける。
それで終わりではない。高く舞い上がったそれは、重力に従って大量の石礫が地面に落下してくる。
「しっかり、捕まっていてください」と枢機卿。
「え? きゃぁ!」と修道女は悲鳴を上げた。 枢機卿が彼女の体を引き寄せると、まるで荷物のように小脇に抱えたのだ。
「すぐに終わりますから、暴れないように耳と目を塞いでおきなさい」
「は、はい」と素直に従った彼女は聡明と言える。
落下する大量の石礫、それを枢機卿は女性を抱えたまま避ける。
当たらない。 岩と同時に舞い上がった土煙に視界は殺され、頭上は見る事が許されないにも関わらず―――― まるで、石礫がすり抜けているように鮮やかな動きで回避を続ける。 そして――――
「これは、流石に避けきれませんね」
最後に巨大な大岩が落下を開始した。
「まぁ、避けなくとも問題はありませんが――――フン!」
頭上の岩に真っすぐに足を伸ばす高い柔軟性からの蹴り。
蹴りの一撃によって、大岩を粉砕してみせた。
「おいおい、話が違うじゃない。お前だけと聞いて無茶をしたんだぞ」とバッドリッチ将軍。
その姿、枢機卿と同じ作業にヘルメット。唯一違うのは手にしているのは普段の大剣ではなくツルハシだった。
「まぁ、このくらいのアクシデントは計算済みですよ。 さて、ここは危険です。早く下がってください」
「危険とは、これから一体何が始まるのですか?」
「我々の仕事は、学園地下の迷宮の調査と整理です。そのためにはまず――――」
「まずは、
そして、その背後にはバッドリッチ将軍を追いかけて来たのか? 巨大な、巨大な影が出現した。
「さて、ここからが本番だ。 さっきの蹴りを見る限り運動不足って感じじゃないな」とバッドリッチ将軍は作業を脱ぎ去り、ツルハシから大剣に武器を変える。
「ふっふっ……実戦から遠ざかってましたからね。不安はありますが、フォローは頼みますよ」
「おぉ、前衛は任せろ。間違って背中を撃つなよ」
「はい、善処しますよ」
2人は軽口を叩き合いながら、巨大な影に向かって行く。
その3日後……不眠不休の戦いは終わった。
つまり―――― 大型連休の終わりに学園は生徒へ迷宮の開放を意味している。
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