第101話 ドラゴン退治直前 僅かな休息

 ノアとルナは道なき道を進んで行く。 背中には大きな荷物。


 (小学校の時に林間学校でやったクロスカントリーを思い出す……いやチェックポイントもないし、難易度は段違いだけどね!)


 ノアは前世の記憶を思い出していた。


 手には、地図とコンパス。 


 地図は、100年前に出現したドラゴンの資料。それをバットリッチ家の倉庫に保管されている物を発掘。


 さらに手書きで模写した地図だ。 もっとも100年前の山の地図。


(この地図ってどこまで正確なんだろ? 流石に100年で地形が変わるって事はないと思うけど……) 


 そんな事を考えていると――――


「ノアさん、見えてきましたわよ。この先が目的地ですわ」


「おぉ!」と心も軽く、進軍速度も爆上がりだ。


 そして、森林の障害物を抜けるとそこは――――


「おぉ、遅かったな。もう肉を焼いているぞ」と李書文が肉を焼いていた。


 バーベキューだ! いやそれよりも……


「グ、グランピングだ!」


 巨大なテント。  事前に用意されているキャンプ施設がそこに存在していた。


 近年、誰も足を踏み入れていなかったはずの山頂付近が整備されている。


 恐ろべきバッドリッチ家の財力と行動力。 


 「ん? じゃ、なんで私たちは、わざわざ荷物運びを……」


 そんな疑問も「ほれ、冷めるぞ」と差し出された肉の魔力には勝てなかった。


 考えれば、強行軍の山登り。 意識すれば、お腹が締め付けられるほどの空腹になっていた。


 ノアは渡された肉の串焼きを慌てるように口に運ぶ。 


「お、美味しい! 肉汁が凄くて、歯が沈んでいくように柔らかく、油も多すぎ……なんとなく肉の甘みもわかる。 凄い! これ、何のお肉ですか?」


「うむ、うまいか。ほれ! もっと食え」


「はい! ……あれ? これ何の肉です?」


「はっはっはっ……さぁ食え!」


「いえ、もしかして聞いてはいけないお肉ですか?」


それ以上は「……」とニコニコと笑みを浮かべる李書文に、深い追及はできなかった。


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


「ふぅ、食べましたね」とノアはゴロリと横になった。


それを見ていたルナも一瞬躊躇したが、ノアの横に倒れた。 


「これこれ、寝るならテントの中で、寝袋も用意している」


「はい、ありがとうございます師匠……あれ? 師匠、一口も食べてないじゃないですか」


「うむ、これから修羅に入る」と書文は笑い、


「ドラゴンの出現まで寝ず、食べず、精神を極限状態にもっていく」


「そんな……戦いを前に意図的に睡眠も食事を取らないって、自殺行為です!」とルナ。


しかし、ノアは書文の横に座る。


「ん? なんじゃ?」


「私もお付き合いしますよ、師匠。 それに、これまで何をしていたのか聞きたかったですし」

 

「私も、子供の頃のノアさんの話が聞きたいです!」とルナも座った。


「……お主等」と少し沈黙した後、「フッ」と微笑みながら「仕方ないのう……」と少し考えこんだ。


「ワシがバッドリッチ家から出た後、冒険者ギルドに向かったのじゃが、そこの受付嬢がまずは……」


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


 そして、気づけば夜明け。


 山の頂上から太陽の光が覗き始めた。


 だが、書文の話は夜明けまで続いても語り尽くせぬほど濃厚で高密度の内容だった。 


 そして、もう1日……


 大地が揺れ、大気が揺れ、魔力の濃度が異常を知らす。


「来るぞ!」と李書文は構える。 まだ姿を見せぬ敵。


 だが、出現する場所が―――― 敵の姿がすでに見えているかのように――――


 「フン!」と書文の体は攻撃を開始した。



 

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