第93話 真相?

 夜、寮に戻ったノア。


 彼女の部屋は広いが、その中心に大きなベットが鎮座している。


 それ以外、私物と思わせる物は存在していない。


 そこにノア以外の人物が来ていた。


 ルナ・カーディナルレッドだ。


「なるほど、何者かが部費として多額の金額が魔剣研究部に入れていたわけね」


「うん、でも動機がわからないんだよ」


「動機?」


「だって、魔剣研究部にお金を送っても得をするのはアルシュ先輩だけなんだよ。 でも、アルシュ先輩は正規の部費を思い込んでいたわけで……もちろん、本当はアルシュ先輩が悪い事をしてお金を手にしている場合は取り除いてだけど」


「アルシュ先輩にお金を送って得をする人物が、この事件の犯人だと思っているのね」となぜかルナはため息をついた。


「この事件の犯人なんて大げさなものじゃないけどね」と注釈をつけるノアだったが、ルナは微妙な視線を送る。


「ん? なに、何かおかしい事を言ってるかな?」


「そりゃそうでしょ。 貴方は損得勘定だけで考えているのだから」


「え!? そりゃ……それが普通なんじゃないの? ほら、陰謀論とか話題になるけどメリット&デメリットと考えたら大抵は出鱈目ってわかるって話もあるし……」


「それは、随分とリアリストね。でも、世の中は真逆のロマンチストも存在しているのよ」


「? それは、つまり……どういう事?」


「これが事件だとしたら、本人の動機は無償の愛ね」


「あ、愛?」とノアはジト目でルナを見た。


「ゴホン」と誤魔化すようにルナは咳を1つ。


「冗談はさておき――――」


「冗談だったのか」


「ノアさん、貴方が見逃しているのは――――この問題は、決して魔剣研究部に出所がわからない多額の部費が入ってる……わけじゃないのよ?」


「えっ、だってそれはアルシュ先輩が」


「それは、あくまでアルシュ先輩の立場にしてみたらの話……実際の話は単純で、彼女だけが知らない、知らされていない公的が魔剣研究部へ資金提供されているだけの話」


「ん? 公的な資金提供だって?」


「だって、いくら学園の教員たちが命題としている魔法探求に夢中とはいえ、どれだけ学園が生徒たちに無頓着とは言え――――本当に得体の知れない金銭が1つの部活に流れていたら、とっくの昔に問題になるわよ」


「あっ……それは確かにそうだけど……」


 ルナの意見は至極真っ当なものだった。 どんなにお金があっても学校の敷地内に私室は作れない。


 魔法学園という場所、そして転生者としてのノアの常識。


 それらが、常識や当たり前といった出来事を失念させる事は度々ある。


「もう一度言うけど、部費以外の公的資金が魔剣研究部に送られている。その事はアルシュ先輩には教えられていないだけなの。だって生徒会長と話した時のノアさんの話、他ならぬ貴方自身が


『それは……え? それが原因なのですか? 学園が個人を優遇している……』


って言ったそうじゃない』


「学園が個人を優遇している! だから、生徒会長はアルシュ先輩が、その恩恵を受けている――――いや、その恩恵に無頓着な事を許せない?」


「そうね。最も、資金提供しているのが必ずしも学園だとは限らないけれどもね。

例えば、個人や商会……」


「タニマチやスポンサーが存在しているのか。でも、それをアルシュ先輩に隠している理由はないと思うけど?」


「そうかしら? なんだかんだ言ってもアルシュ先輩は部活の範囲内で活動しているのよ? 堂々と大金を払う事に後ろめたいって気持ちはあるはずよ」


「だから、あくまでアルシュ先輩への支援は学校への寄付という形になっている……」


 ノアは連想させたのは、野球だ。


 高校野球で全国常勝高はお金がかかる。 


 専用の室外練習場所が2か所。 それとは別に室内練習場もあったり……


 練習試合で県外への遠征。 バットやグローブはもちろん、ボール1つだってそれなりの金額。


 膨大な資金は卒業生や保護者などの寄付で賄われる事が多い。


 そのため、父兄会やOB会なんてものが存在している。


 毎日練習を見に行き、場合によっては監督やコーチなど指導者へ意見を言う。


「けれども、それを徹底的に学園がヒミツにしているって事は――――」


「もちろん、やってるでしょうね……中抜き」


「うわぁ」とノアは叫んでベットへ寝転んだ。中抜き、アルシュ先輩への資金を学園が運営費に一部まわしている。


「まぁ、いいんじゃない? 正直言ってアルシュ先輩の私室なんて――――」


 ルナの発言は身も蓋もないような物だった。 

 

「私や貴方の部屋より小さいのだから」


「いや、でも……そうだよ。私たちの目的は学園の不正(?)を告発する事じゃないわけで」


「あら、それは大丈夫よ。そのためにメイドリーさんに頼んでいる物があるのよ」


「私のメイドちゃんに? 何を?」


「はい、ノアさまのメイド、メイドリーはここに……いつも貴方のすぐ横にいます」


 急なメイドリーの登場に「おっおう」と変な声が出たノアだった。


「それで首尾はどうかしら?」


「はい、ありました。学園の裏帳簿」


「ちょ! そ、それ盗んできたの?」とノアの言葉に2人は笑って誤魔化すだけだった。


それを受け取ったルナは軽く中身に目を通すと


「やっぱり、思っていた通りだわ。 これで歪な形でも解決をむかえれるわね」


「え? 歪な形って何をするつもりなの?」


「言ったでしょ? 動機は無償の愛だって」とルナは微笑む。 


 

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