第88話 生徒会への勧誘?

 どこか得意げな生徒会長。 「ふふっん」と鼻歌混じり。


 それと比較してルナとメイドリーは怒りを放出している。


 しかし、ノアには、その理由がわからなかった。


 「――――ちょっと、2人とも何があったの?」


 「わかりませんか? ノアお嬢様」とメイドリー。


 「こいつ、貴方に尋常じゃない殺意を向けているのよ?」とルナ。


 当の本人であるノアは「殺意?」とキョトンとしていた。


 「殺気って、やだなぁ2人とも。こんなのお遊びみたいものでしょ」


 「「「――――ッッッ!?」」」


 今度は生徒会長を含めた3人が絶句する番だった。


 何度となく死線を潜り抜けたノア。彼女に取って仮初の殺気なぞ、遊びに分類される物だった。

 

 その直後、教室が凍り付いた。


 極寒のようでありながら、ひりつくような渇き。


 しかし、喘ぐように乾いた喉を鳴らせば、始まってしまう確かな予感。


 「これが――――」


 「ノアさんの――――」


 「お嬢様の―――殺意!」


 その殺意は重力だ。自然の重さが首元を押さえつけるように、動きを――――


「なんちゃって……ね?」


「……」と殺意を向けられた三者は沈黙するしかなかった。


 だが、ノアは何事もなかったように――――


「それで、生徒会長さまが私にどのようなご用件でしょうか? まさか生徒会への勧誘じゃないでしょうね」


 と……おどけるように言って見せた。


「……え?」と気圧されていた生徒会長ではあったが、その様子に調子を戻したようだ。


「あぁ、そうね。その通りよ」


「ん? はい!?」


「貴方が言った通りに勧誘に来たのよ。まさか、この私が震えさせるとは思いませんでしたが……」


後半は、ごにょごにょと聞こえずらかった。けれども、本当に勧誘に来たようだ。


「えっと……どうして私を?」


「どうして? あのバッドリッチ将軍の娘が入学したのよ。勧誘しないわけないでしょ?」


「ん~ 父親が凄くても子供が凄いとは限りませんよ?」


「あら、入学して1週間も経過していないのに学園中の話題を毎日提供している貴方が言うセリフかしら……あと、私は関係ありませんって顔をしているけど、ルナ・カーディナルレッドさん!」


「え? わ、私もですか?」


「そうです、我が国が誇る将軍と枢機卿のご息女を従える。そして、ゆくゆくは中央へ! 国の中核へ殴り込みですわ!」


「あっ……出世欲が凄い人だ。 たぶん、この人」


「あら、魔法の発展によって女性が前線で戦えるように、はや数年。出世は女性の本懐と言ってもいい時代は来ていいるのよ? それに……」


「それに? なんでしょうか?」


「あのランペイジ・アルシュが勧誘に来たでしょ!」


生徒会長は、勢いよく前のめりになるとバンバンと机を叩いた。


「あの子、私の勧誘を断って……1年で全国大会優勝? 大人しく私の下に付けばいいものを! 何を大活躍しているのよ!」


「し、嫉妬が凄い」


「嫉妬じゃありません! だから、貴方たちも生徒会に入りなさい!」


「すごい、どこにも『だから』が入っていない!」  


「それで、入るの? 入らないの?」


「え? じゃ、考えさせてください」


「本当に考えるのよね? それ、断るための定型文じゃないと信じているわよ?」


「いえ、もう先生も来て授業が始めるようなので、早く帰ってください。ほら……先生が凄い顔して背後で仁王立ちを……あっ!」


パンッと小気味良い音が生徒会長の後頭部から聞こえた。


すごすごと帰っていく生徒会長の姿を見送りながらノアは――――


「そう言えば、生徒会長の名前を聞くの忘れていた!」


  

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