第87話 生徒会長襲来と狂乱

「貴方、アルシュ先輩は男性だとおもっていたのですか!」


翌日の教室、ルナの声がこだまする。


「声が大きいよ! そりゃ私も注意不足だったと思うけど……」


「いえいえ……流石にあの凛としていながら艶やかな立ち振る舞いは魔法学園の女子生徒は模範せよ! と、まで言われるアルシュ先輩を男性って……」


「ルナさま、ノアお嬢さまは顔で判断する方でありませんので」とメイドリーが助け船。


「へぇ~ じゃ、どこでノアさんは何を判断するのかしら?」


「基本的に戦闘能力を見て、人間としてのランク付けから始ます」


「より悪いわよ! 戦闘民族じゃない!」


「メイドちゃん、ひどいよ。流石の私もそこまでじゃないから!」


「いえ、心当たりはありますわね」


「ルナちゃんまで!」


「……それで、貴方は魔剣研究部に入部する事に決めたのかしら?」


「ん~」


「あら意外ね。 あんなに強いアルシュ先輩と毎日でも戦えるなら!ってホイホイついて行きそうな子なのに」


「だから、私は戦闘民族じゃない! ……はず?」


「自分でも疑問に思い始めたら末期症状ね」


「ん~ なんていうか、適材適所的な?」


「それ、どういう意味ですか?」


「うまく説明できないのでけど…… あそこは、本気で魔剣が好きな人たちが魔剣の道を究めようとしている部活ってのが見学してよくわかったからね」


「なるほど、わかったわ。戦闘狂の自分が興味がないのに、破壊するために入部するのは間違っているってことね」  


「大体、そうだけど…… ルナちゃん?私のイメージどうなっているの?」


「あら? どこか間違っているかしら?」とルナはニヤニヤと笑っていた。


 そんな、もはや日常とも言える朝の教室で行われる光景。 しかし、この日は少しだけ異変があった。


 ざわ…… ざわ……


      ざわ…… ざわ……


 「ん? 何か騒がしいけど?」とノアは気づく。


 「そうかしら? ……ん、確かに少しだけ変ね」


 「お嬢様、どうやら生徒会長がお越しのようです」とメイドリーがノアに耳打ちする。


 「生徒会長? あぁ、入学式で挨拶していたね」


 ノアは思い出す。 金髪碧眼の少女。


(なぜかエロげーの生徒会長って金髪碧眼が多いよね? あれって何が最初なんだろ?)


 などと、ノアに取っては久々に現世がエロげーの世界である事を思い出した入学式だったが、その生徒会長がなぜ1年生の教室に?


 クラスメイトの全員がその疑問符に頭を埋められていると、生徒会長はスタスタと物怖じすることなく1年生の教室を歩いて行く。


 そのウォーキングは我が物顔だ。


 もしかしたら、生徒会長という立ち位置、あるいは生徒会長という権力はノアが想像している物より遥かに増大なのかもしれない。


「貴方がノア・バッドリッチね」


両手を組み、仁王立ちである。 その表情は、どこか楽し気であり、椅子に座るノアは見下ろしている。


「はい、私がノアですが? なにか御用ですか? 生徒会長」


「あら? バッドリッチ家のご令嬢は猪突猛進の戦闘狂バトルジャンキーと社交界でも話題でしたが、意外と言葉が通じるものなのね。後ろの2人は違うみたいだけれども」


「え? 2人?」とノアが振り向くと――――


「――――」と無言のルナ・カーディナルレッド。


「――――」と無言のメイドリー。


 2人はブチ切れていた。


「え? ちょっと2人とも落ち着いて……ってルナちゃんは普段は同じような事を言ってるよね? なんでキレてるの?」


「キレてませんよ。 キレてからですよ……私がキレたら歩いて帰しませんよ」


「どういうキレ方なの!」


 そしてメイドリーは「ブツブツ……」と生徒会長を睨みつけたまま、呟き続けている。


「えっと……」とノアが聞き耳を立てる。


「大丈夫です。もう殺します。もう殺しています。もう死ぬのだから大丈夫。死者に怒りを向けるほど不毛な事はありません。もう、彼女の口から不敬を発する事なきように、綺麗に縫いましょうね」


「ひぃ!」とノアは短い悲鳴を上げる。


「2人とも冷静に! どうしちゃったの!?」 


   

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