第78話 早くもクリア? ルナ・カーディナルレッドのルート

 ベルゼブブは倒れた。 立ち上がる気配はない。


 「勝った!」とノアの勝利宣言で幕を閉じた。


 ――――そう思った直後である。 


 白い影が複数、部屋に飛び込んできた。そして、その中心にいたのは――――


「皆、大人しくしなさい! 教会の者です」


 ルナ・カーディナルレッドだった。


 昼間、ノアと戦った時と同じ戦闘用の衣装。そして、聖女の象徴とも言える旗を手にしている。


 ギロリと険し気な視線で周囲を確認する。すると――――


「え? なんで? これは……もう終わっている?」


 凛とした表情が崩れ、驚きの表情へ変わった。


 おそらく、彼女の仲間なのだろう。白い装備に身を包んだ男が彼女に耳打ちをする。


「これは……邪神が倒されている? しかもお嬢、こいつはベルゼブブですよ」


「なっ!? 対魔用の礼装もなしに……一体、どうやって?」


「ん~ 素手かな?」と疑問に答えるノア。


「……」と皆、無言で微妙な空気が流れる。 信じられないという感じよりも、コイツならやりかねないという表情だ。


「ノアさん、貴方は! 急に深夜にいなくなったと思ったら! メイドリーさんも止めてください!」


「ごめんね ルナちゃん」とノア。


「私が付いていながら申し訳ありません」とメイドリー。


 どちらも本心ではないのが伝わってくる。


 「もう、いいです。悪魔の封印しますから、2人とも下がってください」


 倒れたまま、姿も朧気で歪んで見えるベルゼブブ。 だが――――


「おぉ、教会の創られた聖女か! 今日はツキがいい……祝え! 次の顕現は魔拳の姫との祝詞を奏上するならば、神々の祝福とて甘んじて受けてみせるぞ!」


「えっと……何を言ってるの? あの悪魔は?」と仲間に尋ねるルナ。


仲間たちも「……」と無言だったが、やがて重い口を開いた。


「おそらくですが、次に現世に来た時は魔拳の姫……ノア・バッドリッチと結婚するつもりだから、祝ってくれ……という意味かと」


「なっ! ノアさん! 貴方は悪魔を相手に何をしたんですか! や、やらしい!」


「……え? 私!? ってメイドちゃん、飛び出そうとしないで! 今は地獄的な場所に送り返す儀式の途中でしょ! たぶん……」


「あとで事情はしっかり聞かせてもらいます……では、皆さん行きますよ!」


それから後の事は、ノアとメイドリーにはわからなかった。


未知の領域。 これが本場の悪魔祓いというやつなのだろう。


ルナたちが何をやって、ベルゼブブを追い詰めているのか?


ベルゼブブは何をして、ルナたちの攻撃(?)を耐えているのか?


気がつけば、ベルゼブブは消え去っていた。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


 朝。


 残された部屋。 教会側と学園側の人間が後始末に走り回っている。  


 ノアとメイドリーも、よくわからない偉い人たちから事情を聞かれる。


 「どうして、深夜に迷宮に入り、この隠し部屋を見つけたのか?」


 この質問に答えるのは難しいが、なんとか誤魔化したノアたちだった。


 「疲れましたね」とメイドリー。


 「うん、それでもうまくやれたね」とノアは返す。それから、


 「魔法学園に入学して何日だっけ? もう何か月も経過した気がするよ」


 「……昨日が入学式、今日から授業の開始……いえ、夜が明けたので3日ですね」


 「入学して3日目でこれか! 先が思いやられるってやつだね」


 「しかし、よかったですね」


 「ん? 何が」


 「ルナ様も心を開いてくださったみたいですし……」


 「え? そうかな? あんまり変わってないと思うけど?」


 「いいえ。ノアさまの事を認めてくださっているようですよ」


 「そうかな?」とノアは疑問符を浮かべる。 メイドリーは「それに……」と続ける。


 「これで、ノアさまの未来が良い方向へ変わるのですよね?」


 メイドリーは優し気な顔を見せてくれる。


 「うん、まぁゲームで言えばルナルートって言えばいいのかな? 私が狂化して酷い目にあう原因を1つ潰せたからね」


 ピキッっと空気が凍るような音がした。


 「1つ? ですか? つまり……」


 「うん、私の天井知らずの矜持が原因で、狂化して魔人となった果てにエッチな事させる未来は、あと4つだね」


 「あと4回も、このような事件を解決しないといけないのですか!」


 「大丈夫、大丈夫! 3日で1つのバッドエンドを回避したのだから……あと1年で全部潰せるよ! あっ、2つは2年目の転校生と後輩だから、1年じゃ無理かな」


 「――――っ!」と卒倒しそうになるメイドリーだった。   

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