第51話 なぞの少女ライム ②
「わたし……殺される」
少女は尋常ではない怯えを見せた。
子供の戯言、大げさなと言い捨てるにあまりにも恐怖の色が濃い。
「メイドリー」とノア。
「はい、先ほど説明いたしました憲兵の他にも案がございます。憲兵と同じく治安維持の権利を持つ方々……」
「それは?」
「貴族です」
「ん……」とノアは呟いた。
要するに貴族の一員である自分にも少女ライムを保護する正当な権利があるという意味なのだ。
この国では、例え罪人であっても憲兵に捕らえられる前に異議を貴族に申し立てれば、貴族による見分と罪人の保護が行える場合がある。
もっとも、ほとんどの貴族は正義心で行う事はない。
その見返りに相応しい金額を袖の下に渡さないと、普通に断る。
だが、たまにいる。 正義に燃える者も……
さて、話を戻そう。
こうなっては、ノアという人間は――――
「ライムちゃん、大丈夫だから……私たちといる限りは怖いものから守ってあげるから」
「本当に? じゃ……ママも助けてくれる?」
「うん、それじゃライムちゃんに何があったのか? どんな怖いものが出てくるのか? お姉さんたちに教えてくれるかな?」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「ノアさま、バットリッチ家に連絡をいたしましょう」
メイドリーの言葉に一瞬、悩むノア。
家を出て、闘技者として活躍する。 その目的はある程度は成功している。
だが、武道家としてのノアは、まだ見ぬ未知の強豪と拳を交えたいと思っている。
もしも、実家の支援を受ければ、家出的な
「まぁ、仕方がないね。メイドちゃん、すぐに連絡を……法と調査に精通した者たちの派遣をお願い」
「かしこまりました」とメイドリーは一礼をして、部屋から出ようと――――
しかし、ドアノブを掴む直前に動きを止める。
「ん? どうかしたの? メイド――――」とノアが言い切るよりも速くメイドリーは動き、ドアを蹴破った。
その先、吹っ飛んだドアを受けて、男が悲鳴を上げる。
「私の気配感知を超える者……追手ですね?」
貴族に使え、要人警護のために暗殺術を学んだ
だが、残念な事に男の品は悪かった。
「痛てぇだろが! ダボっ! あーキレちまったわ。 こりゃ、メイドと貴族を切り刻んでストレス解消だわ」
不良のような口調のそして手にはナイフを。
「向けましたわね。私とお嬢様に刃を!」
メイドリーの動きは速かった。 男がナイフを一振りする余裕もなく、頭から地面に叩きつけられる。
終わってから初めてわかる高速の投げ。 男は辛うじて生きているだろうが、失神している。
「お嬢様、すぐに避難をしましょう。この宿の外……酷い臭いをする者が数名。すでに囲まれています」
「え? ちょっと待ってよメイドちゃん。囲まれているのにどうやって?」
「決まっています。もちろん、貴族と従者らしく優雅に中央突破です」
そう言い終えたメイドリーが笑った気がした。
ノアは慌てて、ライムを抱えてメイドリーの後ろについて行く。
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