第49話 奴隷市場の壊滅のあやしな雲行き
控室へ続く通路を歩く影が1つ。
「くそが……」
悪態をつき、鉄スライムで折れた腕を固定している。
ゴットフリード・フォン・ベルリヒンゲン……通称 鉄腕ゲッツだ。
「ん?」と前方に違和感がある。 目を凝らせば、それまで見えなかった人影が浮き上がってきた。
それは老人だった。 しかし、ただの老人ではない。
剣聖……あるいは剣鬼と言われる人物。
名はヨハンネス・リヒテナウアーだった。
「なんでぇ爺さん。 気配を消して散歩するの趣味になっちまったのかい?」
「ほっほっほっ……まさかじゃろ? この程度の歩行術で察せぬなら武ではないわ」
「冗談ぬかせよ。それで何の用だ? 笑いに来たか? それとも敵討ちでも誓ってくれんのか?」
「それこそ冗談じゃわな。ワシがお主にそこまで肩入れしてると思っていたかいのう?」
「けっ! じゃ、何の用だ」
「……裏の稼業の話じゃよ」
「……」とゲッツは、無言になった。それまでの軽口が嘘のようだった。
「どうやら、奴隷市場に介入した連中がいる」
「介入? どれくらいの打撃を受けた?」
「誰にも気づかぬような小さな傷を……じゃが、毒のように徐々に壊滅へ進んで行くじゃろう」
「――――ッ!」とその損害に息を飲むゲッツ。それから、
「滅ぶのか? この町は?」
「さぁてなぁ? 奴隷市場がなくなっても暫くは生き続けれるじゃろう。細々と小さくはなるじゃろうが……」
「そうか……それで、報復相手は?」
「お主、やるつもりか? その怪我じゃ無理じゃろ」
「飯食って寝てら治る」
「無茶苦茶じゃな。今回はワシに任せておけ」
「あん?」と
「それじゃ、なんでこの話を俺にもってきた?」
「それがじゃな……報復相手はわかっておらぬ。ただ……」
「ただ?」
「10代中盤くらいの子供。それも馬鹿みたいに強いという事だけわかっている」
「――――っ! あぁ、なるほど。その条件を今、この町で思い浮かべたら、1人しか出てこないわなぁ」
「あぁ、裏稼業の多くがノア・バッドリッチに狙いをつけ調査しておる」
「調査か、どうせ出会い頭で殺そうって連中がやる調査だろ? 滝川の小僧はどうした? アイツの調査なら情報精度が高い」
「リタイヤじゃよ。 病院送りってやつよ」
「何ッ! 滝川でも不覚を……そんなに強いのか……」
「あぁ、それで実際に戦ったお主の話を聞きたくてな。どうじゃった? ノア・バットリッチという人間は?」
「……アイツは馬鹿だぜ? 戦う事が楽しくて仕方がねぇタイプだ」
「ふむ……ならば、分別もつかずにこちら側に簡単に踏み込んでくると?」
「……」とゲッツの無言を肯定と取り、「では」とヨハンネスは気配を消した。
彼らは知らない。
この町に来ていた厄災の少年 ギア・ララド・トップスティンガーという存在を……
そして、彼は既に役目を終え、町を去っているという事を……
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
ノアは寝ていた。
連日の戦い。 休日らしい休日はなかった。
しかし、ここにきて3日間の休日期間が設けられた。
いくら、回復魔法などの治癒方法があろうとも、過酷なスケジュール。
ノアの小さな体には、本人にも気づかぬ疲労が溜まっている。
まどろみのノア。彼女は眠りながら、何か違和感をもった。
(――――ん? だれかベットに潜り込んできた? またメイドちゃんかな?)
ノアは、使用人の
(あれ? メイドちゃん? そんなに抱きついてきて重いよ。 ん? あれ? 服を……)
「そこは! 駄目ッ!」と跳ね起きるノア。
すると――――
「どうされましたか! ノアお嬢様」と慌てたメイドリーが姿をみせる。
「え? メイドリー? じゃ、だれが……」と視線をベットに向ける。
すると、そこには小さな子供が寝ていた。
髪の長い女の子……彼女は小さく「ママ」と呟き、小さなな瞳に涙をためていた。
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