第18話 柔道と人体破壊

 剣を持った相手に寝技は危険ではないのか? 


 いや、そんな事はない。 


 皆、当たり前の事を簡単に忘れてしまう。


 柔道とは、対刃物を重点に置いた格闘技という事実を


 曰く――――


 無手あるいは武器を有した状態で、無手あるいは武器を有した相手を制圧する。


 それが柔道である。


 柔道の源流たる柔術は、合戦を想定した技術。


 矢も尽き、刀も折れ……それでも戦おうと最後に使う武器が柔術だ。


 刀を持った相手を抑え込み、折れた刀で相手を首を搔っ切るための格闘技。


 だから、強烈な突きも蹴りと言った打撃もない。


 なぜならナイフで突けばいい。それが柔道である。


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


 さて――――


 騎士を倒したヤマトが取った行為は、当然ながら抑え込みだ。


 相手の剣を自由に振るわせまいと上から腕を押さえつける。


 マウントポジション――――というよりも柔道で言う縦四方固め。


 だが、相手の腕を押さえているため、重心が前に寄っている。


 下からのブリッヂで簡単に返されてしまう。


 騎士もそれがわかって腰を跳ね上げる。


 簡単に返されてしまう……そのはずではないのか?


 キープ力? あるいは単純なバランス? それとも知らぬ技術か?


 ヤマトはマウント状態を維持した。


 そして、空いた腕で上から拳を振り落とす。


 1撃、2撃――――騎士がブリッヂで返そうとする。 だが、体勢を整えて3撃、4撃とヤマトのパンチが振るわれる。

 

 騎士がブリッヂで――――


 煩わしいと言わんばかりにヤマトは、掴んでいる腕の捕縛を緩める。


 そのまま、腕を足に絡ませ、捕縛を強めようとしたのだろうか?


 あるいは反撃を許さないほど、両手で殴りかかろうとしたのか?

 

 だが――――


 それは隙となった。


 騎士が下から剣を振るう。 


 ヤマトの肩に剣が当たる。 道着から染み出した赤い線がハッキリと見えた。


 だが、背中を地面に押し付けられ、腕の力だけで振るった剣戟。


 不完全な袈裟斬りはヤマトの体に傷をつけるだけに終わた。


 (しかし、その状態。剣を滑らるように引けば、鎖骨とまでは断てなくとも……)


 そう騎士は思い、剣にさらなる力を込めようと――――できなかった。


 ヤマトにその腕を掴まれたのだ。


 そのまま腕をわきで抱えるように固定。 騎士の腹部にヤマトの右膝が落とされる。


 ダメージが目的ではない。 そのままヤマトは左足を地面に放り出すようしてバランを整える。


 この状態を『ニー・オンザ・ベリー』と言う。


 相手を地面に固定するのは右の膝だけでいいのだ。


 そして――――殴る。


 殴る。

 

 殴る。殴る。


 殴る。殴る。殴る。


 殴る。殴る。殴る。殴殴殴殴殴……る。


ヤマトは、もう「ここで止めますか?」とは聞かない。


「これが最終忠告ですよ?」とは言わない。


おそらく、相手は戦意を消失しているだろう。


敗北を認める発言もしているかもしれない。


だが、ヤマトは殴る。 殴るのを止めない。


「これ以上は……」とノアが呟いた。


「危険だ」と続きを言うよりも速く、ヤマトはとどめに打って出た。


 腹部に乗せている膝に体重を乗せ、左足を騎士の首に巻き付かせると後ろに倒れ込んだ。


 腕十字固め。


 先ほどの戦いと同じ技……だが、今度は手加減はない。


 バキバキバキと何かが剥がれるような異音。


 ヤマトが技を解くと、もう騎士は地面にのた打ち回る事しかできなくなっていた。


 その凄惨とも言える死合に絶賛の声を送る者など現れず、誰もが口をつぐむ。


 ――――いや、1人だけ絶賛する者がいた。


「躊躇もなく壊すか。よほどの修羅場を潜り抜けたか」 

 

 そう言ってヤマトの前に出てきたのは、次の挑戦者である李書文だった。



  


 

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