第14話 新たな師 武田惣角

 魔剣騒動も納まり、もはや日常の光景として八極拳の鍛錬を行うノア。


 しかし、この日はいつもと違っていた。


 現れた李書文の手には木を削って作った剣……つまり木刀が握られていた。


 木刀? 八極拳に剣術があるのだろうか?


 少なくともノアは聞いたことがないのだが……


「ほれ」と書文は、木刀の柄を握るように差し出してきた。


「?」と疑問符を浮かべながら、自然と木刀にてを触れると――――


(電撃!? 意 がもっ いかれ ……)


その場で倒れるノア。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


「起きろ、お嬢ちゃん」


「――――え? ここは」と周囲を見渡すも、妙に薄暗く視覚が効かない。


それにさっきの声は? どこかで聞き覚えがあるような……


「起きたか?」と声の主は、


「……いや、武田惣角? 本物っ!? なんでこんな所に!」


「なんでって言われてもなぁ。お前さんの師匠の仕業だぜ?」


「師匠? 先生が? 何を?」


「おいおい、なんも聞いていないのかい。アイツ、魔剣から人に取り付けるなら、魔剣から木刀に精神を移動できないか? って言うんだぜ?」


「え? それじゃ、さっき先生から握らされた木刀は?」


「応よ、俺の新しい本体よ。この空間は、お前さんの精神世界って感じだな」


「道理で、簡単に魔剣を返した思ったら……でも、どうして先生は、そんな事を?」


「また俺と戦いたいっての一番の目的だろうよ。後は俺の技術を取り入れたいのだろう」


「技術を取り入れるって……もしかして、この状況は?」


「そうよ、封印から解放を条件にお嬢さんを鍛えろってよ」


「それから……」と空間に向けて指す。


空間に映像が浮かんでいる。まるでテレビだ。


「あれは?」


「外の世界で、お嬢ちゃんの体を借りて、書文と組手をしてるんだ」


「え? じゃ今の貴方は? 先生と組手しながら私に話しかけているの?」


「長い時間、精神体で生きてきたんだ。人格を複数に分けるのは得意よ。それにお嬢ちゃんも同じだろ?」


「私が人格を分けるのが得意?」


「おうよ、俺が見る限りは女の精神に男が入り込んでいるな。それに妙な感じが……」


「……あぁ、それは正しいですね。私――――俺は前世が男だったから、男性的な人格と女性的な人格が不安定なんですよ」


「うむ……お嬢ちゃんも転生者かい。まぁ、俺が言っているのは、そういう意味とは少し違うがな」 


「?」


「今は気にしなくていいか。それじゃ稽古を始めるぞ」


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


 武田惣角が最初にノアに指示したのは四股踏む……相撲取りがやるアレだ。


 股を広げて、大きく足をあげて片足立ちになるアレ。


 「……えっと? これが合気の鍛錬? 相撲じゃなく?」


 疑問を口にしながら足を地面に力強く叩きつける。


「うむ、そんなに力を入れなくても良い。静かに音がでないようにやってみろ」


「こうですか?」とゆっくりと静かに四股を踏むノア。  動きが遅いそうが、キツイ感じがする。 


(でも、精神世界でに肉体鍛錬や疲労ってどうなるんだろう?)


 惣角は、ノアが何百と四股を踏んでも「……」と見守っている。


 毎日、寝ながら站樁たいとうを行うノアの足腰は常識外の功夫を手に入れていた。


 四股の回数が4桁を越えてから暫くして――――


「それまで」と止めた。


「まさか、1日目で1000を越える四股を踏むとは……まぁ良い。

 ワシの弟子に鍛錬法を考えるのがうまい奴がいてな。こちら側で会った時に聞いた合気体操という鍛錬法を……」


 こうして、現実世界では書文を相手に合気を使った組手を


 精神世界では惣角から鍛錬法の指導を受け


 メキメキと合気の理合を身につける事になった。


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